[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

SDGs達成に欠かすことができない社会的孤立・孤独問題の解決にむけて

(2021年12月15日)

 2015年9月の国連総会において採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」の17の目標と169のターゲットは国際的な目標として認識され、各国で関連した取り組みが積極的に行われています。社会課題の解決に向け、研究者だけでなく社会の多様な人たちとともに行う研究開発を支援している国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(以下:RISTEX)においても、2019 年度に「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(​SOLVE for SDGs)」を開始しました。2021年度には、SDGs達成に欠かすことができない社会的孤立・孤独問題の解決に向け、同プログラムの特別枠として新たに「社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築」を設置しました。

 

 現代社会は近代化・個人化が進み、伝統的なつながりから解放され、自由やプライバシーが守られるようになった一方で、関わりの希薄化が進みました。また、人口の減少・少子高齢化などによる社会構造の変化も受け、孤立や孤独の問題が取り上げられるようになりました。さらに近年では、新型コロナウイルス感染症の流行の影響から外出自粛が長引き、社会的孤立・孤独問題が一層深刻さを増しています。

 政府においても、自殺者やDV・児童虐待の相談件数の増加などを受け、2021年2月に内閣官房孤独・孤立対策担当室を立ち上げ、閣僚級ポストを設置しました。担当大臣の設置は、英国に次いで世界で二人目、閣僚級では世界初とのことです。政府全体として総合的かつ効果的な対策を検討・推進するため、ソーシャルメディアの活用、孤独・孤立の実態把握、孤独・孤立関係団体の連携支援という3つのテーマに関するタスクフォースを設置するほか、NPOなどの支援団体・民間企業・学識経験者・行政が一体となって取り組むための仕組みづくりや孤独・孤立対策に取り組む支援団体などがより活動しやすくなるような環境づくりが進められています。

 

 この様な中、RISTEXでは上述の研究開発プログラムにおいてプロジェクトの公募・選考を行い、2021年11月1日に次の7つのプロジェクトの採択を発表しました[1]

 

プロジェクト名

研究代表者

孤独・孤立のない社会の実現に向けたSNS相談の活用

上田 路子 (早稲田大学 政治経済学術院 准教授)

地域とつくる「どこでもドア」型ハイブリッド・ケアネットワーク

近藤 尚己 (京都大学 大学院医学研究科 教授)

社会的孤立の生成プロセス解明と介入法開発: 健康な「個立」を目指して

太刀川 弘和 (筑波大学 医学医療系 教授)

職場における孤独・孤立化過程の分析―総合的予防プログラムの開発に向けて―

松井 豊 (筑波大学 働く人への心理支援開発研究センター 主幹研究員)

演劇的手法を用いた共感性あるコミュニティの醸成による孤立・孤独防止事業

虫明 元 (東北大学 大学院医学系研究科 教授)

新生活に伴う孤独リスクの可視化と一次予防

柳澤 邦昭 (神戸大学 大学院人文学研究科 講師)

すべての子どもの社会的孤立・孤独・排除を予防する学校を中心としたシステムの開発

山野 則子 (大阪府立大学 大学院人間社会システム科学研究科 教授)

 

 2021年度の募集では、新型コロナウイルス感染症の社会的影響を踏まえた研究開発の提案を求めました。78件の応募の中から、社会的孤立・孤独の生成プロセスやその特徴を解明する研究をするものや、職場や学校という環境で生じる孤立・孤独の兆候をとらえ適切なケアと予防をするための研究、長引くコロナ禍が子どもや若者・女性へ及ぼす影響のメカニズム分析と支援環境の構築を目指す研究など、多様な7つのプロジェクトが採択されました。人文・社会科学のほか、ライフサイエンスや情報通信など多岐にわたる研究者が参画しており、対象とする社会的孤立・孤独の問題の切り取り方やアプローチも多様なものになっています。また、大学だけでなく自治体やNPO、医療機関、福祉機関、民間企業などが研究開発に参画し、新しい社会像の実現に向けた構想の策定と、研究側と施策現場を接続し、研究開発成果を社会実装するための体制構築を目指していく予定です。

 

 RISTEXが社会的孤立・孤独の社会課題を解決するために大切だと考えているのは “予防”です。すでに起きている問題を解決することももちろん大切ですが、社会的孤立・孤独問題を生まない持続可能な世の中を作るための仕組みづくりが重要となります。

 人口減少・少子高齢化、経済変動、新型コロナウイルス感染症等の新興感染症による影響など、様々な社会構造の変化を踏まえ、社会的孤立・孤独のメカニズムを明らかにすると共に、社会的孤立・孤独を生まない新たな社会像を描出し、人や集団が社会的孤立・孤独に陥るリスクの可視化や評価手法(指標等)を開発することなどにより、社会的孤立・孤独を“予防”する社会的仕組みの研究開発を推進します。また、開発した評価手法(指標等)に基づいた、社会的孤立・孤独の予防施策の効果検証を含め、PoC(Proof of Concept:概念実証)までを一体的に行うこととしています。プログラムの実施を通して、人・組織・コミュニティ間の多様な社会的つながり・ネットワークを実現し、社会的孤立・孤独を生まない社会の創出を目指します。

 

 なお、RISTEXでは​今年度、「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)」の他にも、「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(シナリオ創出フェーズ・ソリューション創出フェーズ)」、「科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム」、「科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム」についても新規プロジェクト公募を行い、大学や国立研究開発法人、民間企業、NPOなど多様な提案者から応募を受け、その中から合計20件の新規プロジェクトが10月1日に採択されています[2]。いずれも現存する様々な社会問題の解決や将来起こり得る社会問題への対処などを通して、新たな社会的・公共的価値を創出することを目指した研究開発です。

 

戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)における 2021年度新規プロジェクト採択件数

・SOLVE for SDGs(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築) 7件

・​SOLVE for SDGs(シナリオ創出フェーズ・ソリューション創出フェーズ) 8件

・科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム 5件(他にプロジェクト企画調査6件)

・科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム 7件

 

関連リンク

[1]科学技術振興機構報 第1535号(令和3年11月1日)

[2]科学技術振興機構報 第1525号(令和3年10月1日)

[3]SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)

[4]RISTEX

 

株式会社サニーサイドアップ  松瀬 恵子  (まつせ けいこ)

※株式会社サニーサイドアップは、科学技術振興機構(JST)
社会技術研究開発センター(RISTEX)から広報支援業務を受託しています。