作業内容に合わせて操作法を変更して実行する 深層学習型ロボット制御技術
(2021年7月01日)
近年、ネットワーク・ICT技術を活用し、工場の自動化・効率化を実現しようというスマートファクトリーが注目されています。製造業における作業の自動化は以前から進められていましたが、さまざまな作業分野があるためすべてを自動化することは困難でした。そのため異なる作業に対応させるには、プログラムを新規に作成する必要がありました。
株式会社日立製作所と早稲田大学理工学術院の尾形哲也教授の研究グループは、自動化が難しいとされてきた分野、例えば触れると形状を変える布や紐のような対象物に対応した深層学習型ロボット制御技術を開発しました。この技術の要となるのは次の二つの技術です。
一つはロボットが作業をするときに必要とする情報を自動抽出する動作生成技術です。カメラなどのセンサーによって対象物の位置・形状・向きを自動的に認識し、作業中に対象物の形状が変化していく不定形な作業でも、ロボットが対象物の変化を自動抽出し、新たにプログラミングすることなく作業が行えるようになりました。
もう一つは言葉によって指示することで、対象物を選択したり必要な動作を推定する技術です。対象物の色・形状などの物理的特徴、及び掴む・押すといった動作内容を言葉で指示することで、必要な動作を自律的に行わせることができます。
これらの機能はAIの深層学習型動作生成モデルによって実現しました。このモデルの利用にあたっては、国立研究開発法人産業技術総合研究所のAI橋渡しクラウド(ABCI)が活用されました。
研究グループは、視覚センサー(カメラ)・触覚センサー・ロボットの関節の角度などの情報を深層学習させ、必要な動作を自動的に生成させることに成功しました。
たとえば、カバンのファスナーを開ける作業を行わせる場合、作業を行うための重要なポイントを複数個所推定し、それらの位置情報からファスナーをどちらに動かせば開けることができるかを予測します。
さらに視覚だけでは判断が困難な場合は、触覚センサーで対象物の引っ張り方向を予測します。これらの作業をロボットに自律的に行わせるには、最初に行うべき動作を数回示してやるだけです。いったん覚えさせれば、対象物の形や方向が変わっても対応できるといいます。
また、ロボットの動作や対象物の選択を言葉によって指示し、それらの関係を学習データベースに記憶させることで、類似の動作をAIによる連想技術によって自動生成し、自律的な動作をさせることができます。たとえば、音声で「赤い箱を取れ」という指示を出すと、指示したとおりの対象物をロボットハンドで掴んで取りだしてくれます。
この技術はプログラミングのリソースを大幅に節約できますから、実用化されればこれまで自動化が困難と思われていた分野の自動化が急速に進むことでしょう。また、少子高齢化に伴う労働力不足が指摘されていますが、その解決の一助ともなるのではないかと研究者は考えています。
©株式会社日立製作所
【参考】
サイエンスライター・白鳥 敬
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。