木材を発酵したアルコール作りに初めて成功―シラカンバなどの甘く熟した香りの樹木酒が、短時間で製造可能に:森林総合研究所
(2018年4月24日発表)
(国)森林研究・整備機構森林総合研究所は4月24日、木材を原料にした芳香豊かな飲料用のアルコールを作ることに成功したと発表した。酒としての安全性の確認にはまだ時間がかかるが、これまでのコメ、ムギ、イモ、果実が原料のアルコールとは一味違う「樹木酒」の新登場が期待されている。
木材が原料のアルコールとしては燃料用(バイオエタノール)がある。高熱処理や薬剤処理をするために飲料には適さず、コスト面からも実用化が進まなかった。
森林総研は木材の新しい前処理法として開発していた「湿式ミリング処理」を使い、80℃以下の比較的低温でアルコール発酵させることに成功した。
木材を形成する細胞壁は極めて固いため、通常では粉末状に砕くのが難しい。湿式ミリング処理は、ミネラル水と小さな金属ビーズを入れて高速回転させ、その衝撃力によって木材を粉砕するもの。
今回は北海道で伐採されたシラカンバと茨城県つくば市のスギを原料に、それぞれ樹皮をはいだあと、樹木をチッパーとハンマーミルでまず粗粉砕した。その木粉をミリング処理し、クリーム状のスラリーを作った。
食品添加用の酵素と酵母を混ぜ、タンク内で木質繊維の糖化と発酵を同時に進めた。遠心分離で上澄みを回収したところ、アルコール度数約2%の発酵液が得られた。さらに蒸留処理を加えて度数28〜30%のアルコールを試作した。
スギ材には特有のテルペン類の芳香が多く含まれ、シラカンバ材には甘く熟した芳醇な香りが含まれており、原料の樹木特有の香りに富んだアルコールが長時間の熟成をかけずにマイルドにできることを確かめた。香り成分を分析したところ、ウイスキーやブランデーを長期間熟成したときの熟成の香り成分が豊かに含まれていた。
この状態ではまだ「酒」とはいえず、これから飲料用としての安全性を慎重に確認する。順調にいけばアルコール飲料の歴史上で初めて「樹木酒」が誕生する可能性がある。
日本は国土の70%が森林に覆われ、1,200種類もの豊富な樹木に恵まれている。それらを活かすことで香り豊かな成分と、味わいのある新たな樹木酒製造産業が見込まれ、林業の振興にもつながるものと期待している。