綿の上に合成したポリアニリン(複合体)の走査型電子顕微鏡写真(提供:筑波大学)
筑波大学は7月10日、綿(わた)の繊維の表面を利用してキラルで光学活性を示すポリマーを合成する「繊維界面不斉重合法」と呼ぶ高分子の新合成法を開発したと発表した。キラルは、同じコンポーネント(成分)でできているが、構成原子の配置が異なり右手と左手のように重ね合わすことのできない分子のこと。
■「不斉触媒」使わずに合成
この新合成法を開発した同大学数理物質系の研究グループは、キラルで、かつ光を回転させる性質(光学活性)を持っている綿の繊維の表面(界面)で、キラルな構造を持たず光学活性も示さないアニリンモノマーの重合反応を行い、キラルで光学活性の導電性高分子ポリアニリンを合成することに成功している。
通常のポリアニリンは、光学活性を示さない。研究グループは、綿の上で合成することで綿のキラル構造が転写されてキラルなポリアニリンができたとみており、「ポリアニリンが綿繊維のキラル構造の影響を受けながら界面で合成され、構造的転写によりキラルな構造を形成することは、天然物のキラリティー(対掌性)を合成高分子に転写したことになる」といっている。
普通の化学合成反応でキラルな分子を作ると、右手と左手に相当する2種類の分子(異性体)が必ず50%ずつ混ざった状態で合成されてしまう。
それを避け、特殊な触媒(不斉触媒)を使って一方だけを100%合成することを不斉合成というが、今回の新合成法は不斉触媒を用いないでその不斉合成が行えることになる。
反応にはあずからない繊維の表面を利用してキラルな物質を合成したという成果は、これまで発表されておらず、今回が初めて。「自然界に豊富に存在するキラル物質を活用して安価に新しいキラル化合物を作製する試み」(筑波大)として注目されそうだ。
この研究成果は、2014年7月2日付けで米国の科学誌「Journal of Applied Polymer Science」にオンライン掲載された。