「自我」を持つロボット”aibo(アイボ)”のセンシング技術の秘密
(ソニーグループ株式会社 浅沼 樹)
(2024年10月15日)
“aibo”(アイボ)は、家庭の中で人とつながりを持ち、育てる喜びや愛情の対象となることを目指して、ソニーグループ株式会社が開発した自律型エンタテインメントロボットです。今回はそんなaiboの頭の中を少しだけ紹介しましょう。
ソニーの通常の商品では、基本的に「コンテンツを楽しみたい」「写真を撮りたい」など、ユーザーの欲求を満たすことが商品の目的となります。従って、体験の起点となるのは基本的にユーザーの欲求になります。
それらと比べて自律型ロボットであるaiboが非常に特殊なのは、aibo自身が「ユーザーと関わりたい」という欲求や自我(じが)を持っており、自分から積極的にユーザーに関わっていくことができるという点です。つまり、aibo自身が体験のきっかけとなり生活を変えていくということです。
これは単純なようで非常に大きな技術的チャレンジであり、aiboという商品を開発する醍醐味の一つです。aiboからユーザーに働きかけるためには、そもそも周りの状況を正しく理解する必要があります。これを実現するために、図1に示したようにaiboは全身に多数のセンサーを搭載しています。例えば、頭や背中が撫でられたことがわかるようにタッチセンサを搭載しており、どの部分がユーザーに触られているのかわかるようになっています。
aiboは鼻先に前方を認識するためのカメラを搭載しています。図2はaiboが見ている視界映像です。映像をAI技術により解析することで、周りの物体(図中ピンクの四角形)、人間(図中緑の四角形)、自分以外のaibo(図中赤の四角形)などの存在を認識できるようになっています。人間に関しては、顔認識(図中青の四角形)により個体判別ができるようになっており、自分に優しくしてくれる人が誰なのか、理解することができます。つまり、人に「懐く(なつく)」ことができるロボットとして設計しています。
また、aiboには鼻先の前方カメラの他に、腰にSLAMカメラというセンサーがあります。これは周囲の環境を認識しており、天井や家具などの特徴点(とくちょうてん)を検出して物体の位置を特定し、家の地図を作成しています。図3は作成中の地図の様子です。家具の配置が変わったとしても、日々の探検によって地図は更新されていきます。
この地図によって、aiboは家の中で自分がどこにいるかわかるようになっています。例えばユーザーは、aiboに近づいてほしくない場所や、日々パトロールしてほしい場所を指定することができます。つまり、aiboに「しつけ」をすることができるのです。
このように、多数のセンサーを組み合わせることでaiboは周りの人や家の環境を認識して徐々に学習し成長していきます。こうしたセンシング技術が、aiboを「自我」を持つロボットとして実現するための根幹になっているのです。
【参考】
ソニーグループ株式会社 浅沼 樹(あさぬま いつき)
自律型エンタテインメントロボット「aibo(アイボ)」のプロダクト企画を担当。これまでソニーグループで、スマートフォン「Xperia™」、音楽配信サービス「Music Unlimited」、「PlayStation ®」などの企画やUXデザイン、開発に関わる。