ブロックチェーンで社会が変わる?
(2019年3月20日)
~仮想通貨のきっかけに
ブロックチェーンという言葉を聞いたことがなくても、ビットコインという言葉を耳にされた方は多いと思います。ビットコインの他にもイーサリアム、リップルなど1,000種類以上あるといわれ、これらは仮想通貨と呼ばれます(今後は暗号資産と呼ばれることとされました)。何百億円もの大金が盗まれたなどの報道から、うさんくさいイメージがつきまとうものの、円やドル等実際の通貨との交換サービスも整備され、仮想通貨で品物を購入できる店も増えつつあります。
そのような仮想通貨を支えているのが「ブロックチェーン」技術であり、むしろ積極的に仮想通貨以外で利用したいという期待が広がっています。今回はこれについて話をします。
~ブロックチェーンの仕組み
ブロックチェーンとはその名のとおり、ブロックのチェーンであり、インターネット上で作成される一種のデータベースで、別名「分散型台帳技術」とも呼ばれます。ブロック(台帳のページに相当)にはいろいろな情報が書き込まれ、時間的な順序を保ってつながっていきます。
データベースでは、通常一カ所にデータが集められ、誰かがデータベースを管理しています。ところが、ブロックチェーンにおいては、データはブロックに書かれますが、書き込む人が決まっているわけでも、管理している人が決まっているわけでもありません。ネット上の誰かが、ないしは共同して管理しています。特定の管理者がいなくても、管理できてしまう不思議があります。
誰もがブロックを作ってしまうと混乱するので、管理面では約束事があります。1)一定時間ごとにブロックを作る、2)ブロックを作り書き込めるのは一人とする、3)過去のデータと矛盾がないことを確認する、4)一定のルールの下で毎回ブロック作成者を決める、これだけです。4)のルールは、ブロックとブロックを関係づけるための暗号解読パズルを早く解くこと、ブロックチェーン作成への貢献が高いこと等、ブロックチェーンによって様々です。ビットコイン/ブロックチェーンの場合には、暗号解読パズルを早く解くことがルールでした。競争の結果、一番早くパズルを解いた勝者にビットコインが発行されたのです。
ブロックチェーンには、いくつかタイプがあります。ブロックを作れるのが誰かという意味で、(可能性として)誰でも作れるパブリック型(Permission less)と、限られた人だけが作れるプライベート型(Permissioned)に大きく分けられます。
なお、ブロック作りに参加しなくても、ブロックチェーンを利用することはできます。
~ブロックチェーンの特徴
ブロックチェーンの優れているところは、1)全部のデータを誰もが見られる(オープンな状態にある)、2)ブロックには時間的に順番がつくので、先に書かれたもの、後から書かれたものが明確になっている、3)書かれたものは改ざん・消去ができない、4)コストが安い、などが挙げられます。
ブロックチェーンは、“一本”しかないのではなく、同じものが複数存在します。「分散型台帳技術」とも呼ばれるとおり、分散されていますのでデータ保管という観点で、より安全性が高いのです。
欠点がないかというとそうでもありません。ブロックの関係付け競争の話をしましたが、そのためには膨大な計算をしなければなりません。高性能なコンピュータを使って行うため、その電力使用量たるや町一つ分ともいわれます。また、一度書いてしまうと消すことができないということも、特に個人データの場合には欠点になります。個人としての忘れられる権利も大事になっている現在では、慎重に対応しなければなりません。
~社会との関わり
では、ブロックチェーンは、どういったところで使われるのでしょうか。例えば、金融分野での決済、送金(即時送金を期待)、不動産(情報流通、取引契約自体も想定)、登記簿、投票としての使用等が検討されています。
また、仮想通貨を発行し、仮想通貨と財との交換のための素地を有することから、仮想通貨をベースにした“地域”経済の創設などが期待され、実用に向けた実験がなされています。
さらに、その他の例として、例えば、研究分野では、研究記録も考えられます。日々の記録をブロックチェーンにアップするだけで、研究室、研究機関の記録がブロックチェーン化されます。記録の書き換えの問題はおきようがなく、現在、課題とされている研究不正の問題にも対応できる可能性があります。実際に使う際には、記録を一定の条件の下で暗号化してからブロックチェーンに置くなどの配慮が必要なのは言うまでもありません。
シェアリング経済と分散台帳とは相性が良く、今後は、身近なところから、全く予想もしていないようなところまで、様々な応用が出てくることでしょう。インターネット以来の大革命ともいわれるブロックチェーンですが、インターネットの歴史にあてはめるなら、まだまだインターネット黎明(れいめい)期といったところです。地道に技術開発が進むことを期待しています。
科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
科学技術イノベーション政策ユニット
日江井 純一郎
日江井 純一郎(ひえい じゅんいちろう)
1987年東京理科大学大学院理学研究科修士課程修了。新技術開発事業団(現 科学技術振興機構)入団。開発事業、さきがけ事業、国際ヒューマンフロンティア推進機構(HFSPO)出向、日本医療研究開発機構(AMED)出向等を歴任、2018年より現職。科学技術イノベーション政策ユニットにて調査・提言活動に従事。