[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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ロボット基盤技術 ~人に寄り添うスマートロボットを目指して~

(2017年8月15日)

  図1 ロボットに期待される能力と活躍する場の拡大

はじめに
 
わが国が直面する労働人口の減少の問題は、農林水産業、鉱工業などの労働力不足だけでなく、高齢者の介護、乳幼児の保育、老朽化が進んできた社会インフラの保守管理、増加する自然災害、テロなどの対策にも大きな影響を与え、様々な社会問題として顕在化してくると考えられます。このような問題に対し、人間が苦手な作業の代行や人間の能力を強化するような多様なロボットの利用が期待されます。ここでは、人に寄り添いスマートな(賢い)ロボットを実現するために必要となる革新的な要素技術・基盤技術開発の重要性
について紹介します。

これまでのロボット開発と今後の方向性
 わが国においては、1960年代に鉄腕アトムなどのロボットのアニメにより、ロボットへの関心が喚起され、1980年代には産業用ロボットとして実用化されました。産業用ロボットは自動車などの製造に広く使われ、着実に性能向上が図られており、配送や食品加工などへも拡大しています。わが国は、このような産業用ロボットの製造および利用においては世界をリードしています。
 最近では、掃除ロボットやドローン、おしゃべりロボットなどが製品化され、さらに、自動運転、災害救助、社会インフラメンテナンス、介護など様々なサービス分野で活躍するロボットが注目されています。これらサービス分野も含めたロボット産業全体の市場規模は、2035年には10兆円となることが予想されています。

今後のロボット研究開発に求められる方向性
 ロボットの活躍する場所が生活の場に広がることに伴い、今後のロボットには、スマート化、自律・協調動作、安全性、柔軟性、不測の事態への対応などの機能が重要になってきます(図1)。特に人間と密接に関わるサービス分野のロボット基盤技術には従来の産業用ロボットとは異なる機能や性能の要求がでてきます。例えば、人間と一緒にいることが前提となるため、人間に危害を与えないような安全性の向上が求められ、柔らかい材料の利用や柔軟な動作をするソフトロボティクスや、突然の環境変化に対し自律的で柔軟な対応を可能とするために生物の動作に学ぶ新たな制御手法が求められます。
 これらを実現する上で取り組むべきロボットの要素技術・基盤技術は、大きく分けると動力系技術、センシング技術(センサ)、制御技術であり、個々の性能向上とともに、これらが一体となった取り組みが重要になります(図2)。

 

 動力系については、これまで広く使われているモータに加え、形状記憶合金、小型の油圧駆動、空気圧駆動などの研究開発が進められています。センサについては、外界の情報を取り込むためのセンサとしてカメラ、レーザーレーダー、ジャイロ、超音波センサ、圧力センサなどがあり、小型・軽量・安価なものの開発が進められています。制御技術では、マイクロプロセッサ(CPU)やコンピュータの計算・処理能力が高まってきたことや高速通信環境が整備されてきたことから、画像認識、人工知能(AI)・深層学習、自律制御、生物の動作に学ぶ制御などの研究開発が進められています。
 このような要求への対応には、ロボットの主要分野であるメカニクスだけでなく、情報通信(IT)やナノテクノロジー・材料など異分野間の技術の融合・統合による新たな研究開発が不可欠と考えられます。また、ものづくりの現場の技術者と、サービス分野の研究者・技術者などとの連携も必須です。

 世界の主要国でも少子高齢化が進んでいく中で、ロボットの重要性はますます高まっていくと考えられます。今後も日本がロボット産業の分野で主導権を取っていくためには、産学官の連携による一層のロボット研究開発の推進に加え、これらを主導していく若い研究者・技術者を育成していくことが望まれます。

 

【参考資料】

1. JST-CRDS研究開発の俯瞰報告書「ナノテクノロジー・材料(2017年)
 P.330(3.3.10ロボット基盤技術)」
 http://www.jst.go.jp/crds/report/report02/CRDS-FY2016-FR-05.html

2. JST-CRDS戦略プロポーザル「ナノ・IT・メカ統合によるロボット基盤技術の革新 
~人に寄り添うスマートロボットを目指して~」
 http://www.jst.go.jp/crds/report/report01/CRDS-FY2015-SP-03.html

 

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
ナノテクノロジー・材料ユニット フェロー
馬場 寿夫

 

馬場 寿夫(ばばとしお)
1979年に電気通信大学大学院応用電子工学専攻修士課程修了。同年、日本電気(株)入社。同社シリコンシステム研究所の研究部長、基礎・環境研究所のエグゼクティブエキスパート、内閣府総合科学技術会議事務局ナノテクノロジー・材料分野の政策企画調査官などを経て、2012年より現職。企業や政府での経験を基に、ナノテクノロジー・材料分野を中心に、世界の技術動向を把握し、日本の取り組むべき研究領域や課題を検討している。