元素は万物のもと (筑波大学名誉教授 大嶋 建一)
(2024年4月16日)
私たちの体、地球という大地、さらには無限に広がる宇宙空間は限られた数の元素から成り立っていることが知られています。そして、万物の根源的な要素は限られた元素であることに間違いありません。ここで、現在の「元素周期表(げんそしゅうきひょう)」が出来た経緯に触れてみます。
元素周期表 (横軸の番号は族を、縦軸の番号は周期を示す)
1869年、メンデレーエフは19世紀の半ばまでに発見された63種類の元素を、”原子量と化学的性質の類似性”から原子の質量の小さい順に縦と横に配列した二次元的な表を発表しました。この表には数か所に空白があり、彼が新元素の存在を指摘したことはきわめて注目すべきことでした。この時を契機にして、ボーアは新しい概念の力学の法則を応用して原子の構造モデル、つまり中心に原子核があり、その周りに電子が離散的に回っていること、を提唱しました。(図)
さらに、20世紀前半には、新しい力学(量子力学)の確立と科学技術の急速な発展の結果、92番目までの元素が自然界に存在することがわかりました。近年、人工元素の合成が進み、現在までに118番目までの元素が確定されています。
私は平日の朝、つくばエキスポセンター前の遊歩道を自転車にて通過する際、保護者や先生と一緒に幼稚園児や小学生が入館していく姿を度々見かけます。週末にはさらに様々な世代、中学生、高校生などが入館していく姿を見かけます。
センター内には科学と技術に関連した体験可能な展示物が多くありますので、それらを眺めたり、触ったり、動かしたりすることを楽しんでいることでしょう。そして、見学者の中には展示物を通じて、目に見えない空間での原子の振る舞いを知りたいと思う人がいるのではと想像しています。
一方で、高校化学の教科を開いてみますと、ボーアの原子模型の説明において、なぜ一番内側のK殻には2個の電子を、次のL殻には8個の電子を離散的に収容することについては触れていません。また、高校物理の教科書では電子は波動性があること、電子の軌道半径は離散的であること、更に電子のエネルギー準位に触れていますが、これらの概念を正しく理解することは容易ではなく、さらには数学の基本的な知識に基づいた量子力学を学ぶことが必要となってきます。
このように難しく感じる元素ではありますが、案外、私達の身近にあります。
例えば、食品の栄養成分表を見てみると、数種類の元素が含まれていることがわかります。あるメーカーから販売されているむぎ茶のペットボトル飲料についているラベルにはミネラルの表示があります。栄養成分表示にはミネラルに含まれるナトリウム(Na、11番目)、リン(P、15番目)、マンガン(Mn、25番目)と記載があり、私たちはむぎ茶を飲むことでこれらを補給していますので、 “元素は人体のもと”を実感することが出来ます。
【関連情報】
・2024年3/16(土)~5/12(日)まで企画展「世界の”もと”は げ・ん・そ!? ~すべては118の元素のくみあわせ~」をつくばエキスポセンターで開催中!
先生からのおすすめ情報:
企画展では体験可能な5種類の展示物を通じて、118種類の元素の組み合わせから構成されていることを学ぶことが出来ます。さらに、元素クイズとAR元素周期表配布コーナーが設置されています。
また、つくばエキスポセンターの1階には新展示「元素周期表」が設置されました。それぞれの元素を含む日常製品を展示してマクロな世界に結び付けることをテーマとしています。見学の対象は小・中学生としているそうで、私は中学生の時に、原子番号1~20までの元素記号を語呂合わせで「水兵リーベ僕の船」と覚えさせられた事を思い出しました。今年はつくばエキスポセンターの「元素周期表展示年」となることでしょう。
大嶋 建一(おおしま・けんいち)
筑波大学名誉教授(理学博士)。1946年群馬県生まれ。東北大学理学部卒業後、同大学理学研究科博士課程修了。その後、名古屋大学工学部助手を経て筑波大学物理工学系、物質工学系の教授。専門はX線・中性子線散乱法を用いた無機物質の結晶構造解析。定年退職後の2011年から2018年まで筑波大学教育社会連携室の特命教授として、中学生、高校生への科学の啓発活動。現在もシニア・プロフェッサーとしてその啓蒙活動を継続中。