光るマウス誕生!
ーホタルの遺伝子を導入し、生体内部の観察を可能に
(理化学研究所バイオリソース研究センター 阿部 訓也)
(2024年1月15日)
ホタルの光 窓の雪
古くから日本人に親しまれているホタル。ホタルの光はホタルが持つルシフェラーゼという酵素とルシフェリンという基質が反応して生じます。この酵素の遺伝子をホタル以外の生物に導入し、基質を注射することでホタルのように光ることが期待できます。
生体の中ではいろいろな種類の細胞が存在し、多様な働きを営んでいます。例えば、細菌やウイルスが侵入するとそれを排除するために免疫細胞が集まって来ますが、実際に生きたマウスの体の中で働く免疫細胞を見つけ出し、追跡するのは不可能です。それを可能にするためには、対象となる細胞に目印を付け、かつそれらの細胞をマウスの体の外から観察する仕組みが必要になります。
一方、マウス(ハツカネズミ)は遺伝子導入やゲノム改変が容易にできるため様々な生命科学の研究に使われる大変有用な動物です。こういった背景から我々はホタルの遺伝子を導入した「光るマウス」を作ることを試みました。標的となる細胞の目印としてホタルの光を使うわけですが、他の遺伝子導入マウスと掛け合わせることにより、様々な種類の細胞(例えば神経細胞や免疫細胞)を特異的に光らせることが出来るようになっています(詳細は文末のプレスリリースを参照してください)。
体外からの観察は超高感度のデジタルカメラで行いますが、発光の強度が弱いと観察は困難、という問題があります。そこで、従来より高輝度の新開発ルシフェラーゼ遺伝子を利用しました。また光の波長も重要で、波長の長い光は短い波長(青や緑色)に比べて生体を通過しやすいので、我々は黄色と赤色の光を発するルシフェラーゼ遺伝子を導入した2種類のマウスを作りました(図)。これらのマウスは肉眼でも確認できるほど強い光を発し、イメージング機器を使えば生体内にあるごく少数の細胞を検出することが出来ました。さらに異なる波長の光を発する2種の細胞を観察できるので、マウス体内における細胞同士の相互作用を調べることも出来るようになります。
この度確立したマウス系統を利用することで、生体深部にある細胞・臓器の振る舞いを捉え、生体内の反応、病的な状態の理解に役立つことが期待出来ます。
【参考】
■理化学研究所プレスリリース(2023年9月8日)
生体深部を非侵襲的に観察できる多色発光イメージング用マウス
■YouTube動画
黄色と深赤色に光るマウス
Glowing mice in two colors, yellow or far-red, by bioluminescence.
■文献情報
Nakashiba, T. et al.
Development of two mouse strains conditionally expressing bright luciferases with distinct emission spectra as new tools for in vivo imaging. Lab Animal 52, 247-257 (2023)
理化学研究所バイオリソース研究センター
阿部 訓也(あべ くにや)
1983 年 筑波大学大学院生物科学研究科博士課程修了 理学博士
1983年~1985年 米国スローンケタリング癌研究所 博士研究員
1986年~1989年 テキサス大学オースチン校 研究員
1989年~1991年 新技術事業団古沢発生遺伝子プロジェクト 研究員、グループリーダー
1991年~2001年 熊本大学発生医学研究所 准教授
2002年~2023年 理化学研究所バイオリソース研究センター 疾患ゲノム動態解析技術開発チーム チームリーダー
2023年~ 理化学研究所バイオリソース研究センター 客員主管研究員