図鑑編集者の仕事(小学館 図鑑 編集長 廣野 篤)
(2023年4月15日)
「編集者」という仕事について、お耳にしたことがある方も多いかと思います。三浦しをんさんの小説『舟を編む』では辞書編集者が、松田奈緒子さんの漫画『重版出来!』では漫画編集者が主人公になっています。監修・執筆者や作家と二人三脚で奮闘する編集者の姿には心が熱くなります。
私が携わっているのは「図鑑」です。監修・執筆者のお力をお借りして、ご相談しながら仕事を進めていくのは、辞書や漫画の編集者と同様ですが、図鑑の場合は「二人三脚」では足りず、「三人四脚、四人五脚……」と限りなく、ご尽力いただく協力者が多いのが特徴です。
というのも、名前が示す通り、図鑑には図(写真やイラスト)が多数必要となり、写真家に写真の撮影を、イラストレーターにイラストの制作をお願いします。
時には、被写体を求めて、執筆者や写真家と一緒に取材に出かけることもあります。『イモムシとケムシ』(図1)では、幼虫を標本にするのは難しいため、生きた幼虫を撮影する必要がありました。
北へ南へと、幼虫を探し歩き、さらに、日本最大級のイモムシ、ヨナグニサンを求めて日本最西端の与那国島へも行きました。炎天下の中、2日間探し続けて、やっと1匹発見(図2)。その夜のオリオンビールは格別の美味でした。
この図鑑では、約1,100種を掲載しました。幼虫写真だけでなく、成虫や蛹などの写真も掲載しましたので、1冊で3,000点以上の写真を掲載したことになります。
また、イラストの制作も一筋縄ではまいりません。『くらべる図鑑』(図3)では、「一目でくらべられる」をコンセプトにしました。まず、編集者がラフ(イラストの構想)を描きます(図4)。何度も描き直し、納得のいく段階になったら、イラストレーターへ依頼。そして、下図を監修・執筆者にご確認いただき、修正して……という過程を繰り返し、完成に至ります。
監修・執筆者、写真家、イラストレーターのほかにも、デザイナーや印刷会社、製本会社など、時には100名以上の方々にご協力いただきながら、図鑑の制作は進んでいきます。
1冊の図鑑が完成するのに、長い時では2年から3年以上かかります。正直なところ、先が見えずに、逃げ出したくなることもありますが、協力者の方々に見本をお送りし、お喜びのご感想をいただくと、また懲りずに次の図鑑の企画を始めてしまいます。
たくさんの方々の力を集めて編む……図鑑編集者の仕事に出会い、20年以上の月日が経ちました。まだまだ至らぬところが多いですが、体力の続く限り、1冊でも多くの図鑑に携わり、手に取っていただいた読者の方に喜ばれる図鑑を作り続けてまいりたいと思います。
【関連情報】
・2023年3/18(土)~6/11(日)まで企画展「くらべてびっくり!くらべる図鑑」をつくばエキスポセンターで開催中!
廣野 篤(ひろの・あつし)
小学館 図鑑 編集長。
『くらべる図鑑』『もっとくらべる図鑑』のほか、『分解する図鑑』『乗りもの』『飼育と観察』『地球』『イモムシとケムシ』『鉄道』などの図鑑も編集。
自分自身で写真や動画の撮影をすることもあり、天気がよければ出社しないことが多数。