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ここに注目!

大学生の探究的学びについて -STEAM教育として(東京理科大学 川村 康文)

(2024年8月01日)

 アクティブラーニングが大学の授業で必要とされ、全国的に実施されるようになって久しい。それまでは、大学の授業の多くが大講義室での座学中心の受身的授業であったため、彼らが社会人となっても、イノベーション人材としての活躍が難しいとされてきた。そのため、学生自身が主体的に学ぶアクティブラーニングが推奨されてきたといえる。

理系的アクティブラーニングの大学の授業
手元で学生自らが手も動かす

 これまでの受身的授業では、知識の伝達が中心的である。生成AIが学生の間でも普通に使われる時代にあるなかで、知識注入型の授業が果たして必要であるのかという問題もある。そのような時代的背景にあって、学生自身が主体的に学ぶということが実現されるような大学授業の実践の構築(こうちく)が必要であろう。

 もちろん、卒業研究や修士論文作成のための研究の段階では、もともと古い時代からアクティブラーニングがされていたことは認識されているが、少しずつ時代が変わってくることで、その卒業研究もあやしくなってきている大学増えているかも知れない。

 

就職活動と大学の授業からSTEAM教育を考える

 私の研究室の学生も、就職は17時の定時退社が可能な企業にということを声高に主張しているのが現状である。就職活動の面接で定時退社でないからという理由で断る学生も出ている。卒業研究にもそのような意識で接している学生が増えてきても不思議なことではない。

 彼らは、いつ自ら主体的に学ぶのか? 企業に入社してからであろうか? 少しでもブラックと感じると3年未満でやめてしまう学生が増えているという。それどころか、数か月でやめてしまう学生もいる。これらの現象の原因の多くが、大学での授業のせいであると考えられる風潮もあった。

 もちろん最近では、大学のせいばかりでなく、小中高の教育のせいだとか、幼児時代の教育のせいだという声も聞かれるが、他人のせいばかりにしていてはいけない。自分の授業から変えていかなければと考え、授業実践を行っている。

 

非認知能力を育てる、理系的アクティブラーニングの授業

 「分光筒(ぶんこうつつ)」という実験機(簡単な分光器)を、幼児・小学生・中学生・高校生・大学生に作らせて、省エネルギーについて考えてもらうという授業を行っている。幼児・小学生・中学生のほうが、高校生よりも丁寧に上手に作る。大学生になると、できる学生は簡単に作るが、どうしても上手く作れない学生がいる。いわゆる「非認知能力」が育たないまま、受験勉強で大学までなんとか進級してきたという印象を受ける。

 かつて、理系学生に対して半田付けができないことが問題になったことがある。最近では、はさみなどもうまく使えない学生もいて驚いた。そこで、大講義室がいっぱいになる規模の授業(80人程度)でも、実験を取り入れた理系的アクティブラーニングをしかけてみた。

 

授業の方法

 もともとは大学物理学科の2年生に対する通年4単位の授業であったが「前期」を「基礎」、「後期」を「応用」として、半期を積み上げる形に修正した。前期の授業では、もっぱらテーマはこちらで準備し、手先をしっかり使うことも含めて広い意味での科学の基礎実験を、物理学を中心に実施する。この授業ではインパクトがあるように大型の実験機を用い、あわせて必ず手元で学生自らが手を動かす実験を行なう。

静電遮蔽の実験

 静電遮蔽(せいでんしゃへい)の実験では、大型のファラディゲージを準備し、その中に学生に入ってもらう。ゲージにバンデグラーフで火花放電をさせ、ゲージの内側が安全であることを実感してもらう。このとき、手作り箔検電器(はくけんでんき)をゲージの中に持って入ってもらい、ゲージの外では箔が開くが、ゲージのなかでは箔が開かないことを体感してもらう。

 100人に満たないと言っても80人程度の学生ひとりひとりが体験するとなると、時間がかかる。待ち時間になる時間帯では、手元「雷」実験機をひとりひとりに作成してもらっている。ここでのSTEAM的な要素は、教養として「雷に遭遇したとき、どのようにすると身を守ることができるか。」について、学生同士でフリーディスカッションをしながら、雷実験機を作成することや、都市空間を個々にデザインすることである。

手元「雷」実験機
右下の導線の先は圧電素子につながれている。

 具体的には、黒い下敷きに、アルミテープで自分の思う街を作ってもらう。高いビル、避雷針、自動車、高い木、そして雷雲をデザインしてもらう。自動車の中はシールドされている。高い木の横では、直ぐに撃雷に打たれる可能性があること、もちろん避雷針に雷が落ちることなどを、街の様子を自在に制作している間にファラディ―ゲージの順番がまわってくる。

 他のテーマも、ほぼこのような複線構造にしてインパクトのある大型実験機での体験と、当日の内容理解のための手元で自作する実験を組み合わせて、実験のセンスを磨く授業をしている。

 

卒業研究に向けて

 このようにして前期に実験のセンスを磨けた学生(おそらく非認知能力はかなり向上していると思える)に、後期は応用授業として、数名でグループを組んでもらい、将来の卒業研究の準備ともなるように、自由研究を行ってもらっている。あたかもミニ卒業研究と呼んでもいいであろう。テーマを自ら設定し、予算の算出を行い、そして実験を行ったその後、途中で中間発表会を挟み、他の学生から指摘されたことなどの反省点を受け、実験を継続し、最終回発表を行う形式をとっている。

 卒業研究となると、研究室で特定のテーマに固定される面が強いが、この応用の授業では、予算を立てながら自由にテーマ設定ができるので、学生たちは結構面白いことをやってくれる。少なくとも、学生が主体的にチャレンジを持続している姿に出会えることは確かである。

理系的アクティブラーニングの大学の授業より
サボニウス型風車風力発電機の説明

【参考】

講義実験YouTube講座ダイジェスト 理学部第一部 物理学科)

基礎講義実験シラバス 

応用講義実験シラバス

 

川村 康文(かわむら・やすふみ)

東京理科大学理学部第一部物理学科教授、北九州市科学館スペースLABO館長、(社)乳幼児STEM保育研究会理事、1959年、京都市生まれ。博士(エネルギー科学)。
歌う大学教授(youtube.com/channel/UCkvlkwzpeJByKw5BA4m5ZRA/featured)みんなが明るく楽しくなる「ぷち発明」基礎とした「かわむらメソッド」を提唱!

専門は、STEAM教育、科学教育、サイエンス・コミュニケーション。高校物理教師を約20年間務めた後、信州大学助教授、東京理科大学助教授・准教授を経て2008年4月より現職。大学院は理科学研究科科学教育専攻所属。
2022年4月より、北九州市科学館スペースLABO館長を兼任。