生物学を志す高校生の最高の舞台
(2016年9月15日)
リオのオリンピックの感動の余韻もまだ残っているが、高校生が科学の力を競うオリンピックもこの時期世界各地で行われる。今年、国際生物学オリンピックはベトナムハノイで開催され、約70カ国の代表が理論試験と実験試験に挑んだ。日本の代表4名も全員メダルを獲得するという活躍を見せてくれた。むろん、このような国際大会は力試しだけの場ではない。将来、生物学をリードして行くであろう若い才能が刺激し合い、友情を深めていく場でもある。国際舞台を若いうちから経験することは、代表にとってかけがえのないものだ。
来年イギリスで行われる国際大会に出場する代表を選考する、日本国際生物学オリンピック本選が8月19日から22日、筑波大学を主会場に開催された。筆記試験を受けた4000人近くから上位80名がつくばでの実験試験に挑む。2008年から隔年で開催しており、今回で5回目、エキスポセンターには当初からエクスカーションなどでお世話になっている。1日目は、制限酵素処理や PCRに関する分子生物学、ウニの発生生物学の問題が出題され、ピペットマンの操作や幼生の形態観察の技術と同時に、論理的な思考や仮説を設定できる能力などが問われた。2日目は線虫を用いた動物生理学、マメ科植物と根粒菌の共生に関する植物生理学の問題が出題された。線虫の扱いや油浸レンズを使っての観察に四苦八苦しつつも、新しい世界に触れた満足感とともに実験試験を終えられたのではないだろうか。
最初の2日間の試験期間中はストレスで食事もまともにのどを通らない生徒もいたが、3日目以降はエリートたちが交流を深める時間だ。科学先進都市つくばを体感してもらうため、エキスポセンターや筑波大の研究室に散らばって最先端の科学に触れつつ、生徒間での交流を深めるプログラムも企画してる。本選に来る生徒たちはよく口にする、「これだけ多くの生物好きと一緒に過ごせたことはない」と。学校などでは、これほど多くの気の合うメンバーを集めるのは難しいのだろう。「生物好きは生物好きのままでいいんだ、私はここで勝負していいんだ」と思ってもらえるような機会になっているのかもしれない。残念ながら台風の影響で最終日に予定していた表彰式はキャンセルとなってしまい、晴れの舞台に立たせてあげることはできなかった。しかし、ここに来た生徒みんなに、一生残るつくばの地の思い出が刻まれたことだろう。
和田 洋(わだ ひろし)
筑波大学生命環境系 教授
国際生物学オリンピック日本委員会第2部会主査
専門は、巻貝、二枚貝、ウニ、ヒトデ、ヤツメウナギを対象とした進化発生学
趣味は、ランニング、トレイルラン