石垣島でのイチゴ栽培 (国際農研 中山 正和)
(2024年12月01日)
国際農林水産業研究センター(国際農研)は開発途上地域の農業研究を行う研究機関で本部はつくば市にありますが、沖縄県の石垣島にも熱帯・亜熱帯地域へ向けた農業研究を行う熱帯・島嶼研究拠点があります。私はそこで、高温多湿な環境でイチゴを栽培する方法について研究しています。
現在、商業的なイチゴ栽培はヨーロッパやアメリカ、東アジアなどで多く行われており、冬から春にかけて収穫される栽培方法が一般的です。この栽培に使われる品種の多くは一季成り性品種といわれる品種で、気温が低く日長が短いときに花を咲かせるという特徴を持っています。イチゴの栽培適温は15-25℃の範囲と言われており、石垣島をはじめとする亜熱帯地域では暑すぎるために露地での栽培は困難なのですが、東南アジアなどではイチゴの需要が高まってきています。またイチゴは果皮が柔らかいため傷みやすく輸送も難しいことから、熱帯・亜熱帯地域のような高温多湿な環境での栽培技術の開発が求められています。
熱帯・島嶼研究拠点では一般的なパイプハウスに環境制御機器を導入した太陽光利用型植物工場でイチゴを栽培しています。高品質なイチゴをたくさん収穫するためにはイチゴにたくさん光合成を行ってもらう必要があり、そのためには十分な水と肥料に加えて光と二酸化炭素が必要となります。しかし、ハウスの中に光を取り込みすぎるとハウス内は高温となってしまうため、日射量をセンサーでモニタリングしながら遮光カーテンを開閉しています。また、ハウス内の換気のために窓を開けたり換気扇が動作している時に二酸化炭素を施与すると、せっかくの二酸化炭素がハウス外へ漏れてしまうため、こういった時には二酸化炭素の施与を停止します。一方で、日没から日の出までの期間は側窓や遮光カーテンを閉め気密性をなるべく高めてヒートポンプにより冷房します。こういった細かな環境制御を行うために気温や湿度などの環境をモニタリングしながらプログラムに基づいて複数の環境制御機器を動作させる統合環境制御システムを試験しています。
石垣島で環境制御を行わないハウスと上述の統合環境制御システムを導入したハウスで2品種のイチゴ‘よつぼし’と’紅ほっぺ’を栽培したところ、果実重6g以上の可販果は統合環境制御により‘よつぼし’は91g/株から392g/株へ、’紅ほっぺ’は126g/株から402g/株へ増加しました。これを10aあたり8,000株の栽培株数として換算すると、石垣島においても統合環境制御により日本の平均と同程度のイチゴを収穫することができました。こういった試験を踏まえて、現在はインドネシアの大学と共同で現地でのイチゴ栽培試験を始めています。
【参考】
・Nakayama, M., Nakazawa, Y., 2023. Effects of environmental control and LED supplemental lighting on strawberry growth and yield in a subtropical climate. Sci. Hortic. 321, 112349. https://doi.org/10.1016/j.scienta.2023.112349
・国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター(JIRCAS)
中山 正和(なかやま まさかず)
国際農林水産業研究センター(国際農研)熱帯・島嶼研究拠点主任研究員
岐阜大学大学院連合農学研究科生物生産科学専攻修了(博士・農学)
大学卒業後に青年海外協力隊の野菜隊員としてシリアへ派遣。帰国後、国際耕種株式会社へ入社しシリア、イラク、スーダン、エチオピアなどで国際協力機構(JICA)が実施する技術協力プロジェクトに農業分野の専門家として携わる。2019年より国際農研に所属、石垣島にある熱帯・島嶼研究拠点にてイチゴ栽培などの研究に従事。2024年より現職。
写真右は、熱研のマスコットキャラクター「熱研(ねっけん)くん」。ヤシの実がモチーフ。