社会技術研究開発センター(RISTEX/リステックス)の紹介
(2019年4月01日)
RISTEXとは
社会技術研究開発センター:Research Institute of Science and Technology for Society(以下、「RISTEX」という。)※は、科学技術の研究成果を社会に適用して社会問題を解決するために役立つ研究開発を行う組織です。
現代の社会は、多くの解決困難な課題に直面しています。高齢化はいうまでもなく、少子化による人口減少はこれからのわが国の社会のあり方を大きく変えることになるでしょう。また、厳しい国家財政、不透明な国際情勢、そして予想される災害への対応など、いずれもこれまであまり経験したことのない複雑で困難な課題です。
これらの課題に取り組み解決する方法を見出すためには、人類の生み出した科学的研究の成果を動員し、課題の分析、原因の究明、そして有効な解決策の探求に努めなければなりません。そしてそれを現実に社会に適用し実際に解決に取り組むことが必要です。こうした作業にいかに科学的研究の成果を活用できるか、今やそれが問われているといっても過言ではありません。
このような複雑な課題の解決には、それを構成する要素や原因の発見、発明が不可欠であることは当然です。加えて、それらを実用化するための技術、そしてそれを企業化するための資金や人材さらにはそれを確実に実現していくための法制度や財政支援の仕組みもなくてはなりません。
こうした現実の課題解決に至る手法や技術こそ、今日では特に重要であり、それ自体科学的な研究開発の対象となりうるものであり、それを「社会技術」と呼ぶことができるでしょう。
RISTEXは、以下のような観点からこのような社会技術の研究開発を推進支援しています。
第1に、現実の具体的な課題の解決に資する研究であることです。研究の世界だけで完結するのではなく、その応用、実用化や企業化も射程に入れ、政策提言に連なるような研究が期待されています。
第2に、現実の社会の課題を解決するためには、自然科学系の研究だけではなく、それが人文社会科学の研究と結びつくことが必要です。異なる分野の研究者の連携と共同研究が期待されます。
第3に、研究者と実務家との連携です。それには、生まれた研究成果を適用する立場にいる実務の世界との協働が必要であり、実務家の参加と関心の共有が求められます。
このような社会技術を研究開発することの重要性を否定する人はいないと思われますが、それを積極的に促進していくことの必要性についての認識は、まだ乏しいといわなければなりません。
RISTEXでは、現実の課題解決に役立つ社会技術の開発を推進してきましたが、それとともに、これまでの約20年の経験を踏まえ、今後さらにその価値と必要性を社会に広く発信していくことに努めたいと考えています。
※RISTEXは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の一組織で、1999年「世界科学会議」にて発表された「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言(ブダペスト宣言)」で追加された新たな科学の理念「社会のなかの科学・社会のための科学」を実践するために2001年創設されました。
活動概要
社会技術の重要性を踏まえ、RISTEXでは次のような活動を行っています。
研究開発のファンディングでは、国等の政策を踏まえつつ、社会の重要な問題をテーマとする「研究開発領域・プログラム」を設定し、公募による研究開発を実施しています。社会的問題の解決に資する科学技術イノベーション政策の形成に向け、客観的根拠(エビデンス)に基づく合理的な政策形成プロセスの構築を目指す「科学技術イノベーション政策のための科学」研究開発プログラムや、人工知能(AI)、ロボット、IoT等の情報技術の急速な進展により社会にもたらされるメリットとデメリットを特定し、技術や制度へ反映していく相互作用の形成を目指す「人と情報のエコシステム」研究開発領域等を推進しています。これら2つの研究開発領域・プログラムを含め、2019年4月時点で、合計6つの研究開発領域・プログラムが進行中です(図1参照)。
公募により選ばれた「研究開発プロジェクト」では、人文社会科学、自然科学の科学的知見を用いて、方法論の構築・現場における実践を行う分野横断型の研究開発であること、研究者だけではなく、現場の状況・問題に詳しいさまざまな立場の「関与者」と連携し、具体的な現場における社会実験を行い、問題解決に役立つ新しい成果を創り出す研究開発であること、などを重視した研究開発を推進しています。公募や、その後の「研究開発プロジェクト」のサポートにおいては、図2の通り、各研究開発領域・プログラム運営の責任者である「総括」の強力なリーダーシップのもと、産学官民各セクターから選ばれた専門的助言を行う「アドバイザー」とRISTEXスタッフがそれぞれ専門的役割を果たしながら行っています。研究成果の最大化に向け、研究開発プロジェクトの進捗把握からアウトリーチ活動まで様々なサポートを行う「ハンズオンマネジメント」に力を入れている点が特徴といえます。
また、ファンディングのみならず、「研究開発領域・プログラム」において取り上げるべき具体的問題の探索・抽出も視野に入れた「社会問題俯瞰調査」や、科学技術の社会実装に伴い想定される、倫理的・法制度的・社会的問題:Ethical, Legal and Social Issues( 以下、「ELSI」という。)への対応、責任ある研究とイノベーション:Responsible Research and Innovation( 以下、「RRI」という。)の検討など、社会に役立つ社会技術の創出及びその社会への還元に資する活動も同時に行っています。ELSI対応の一例として、JST戦略研究推進部が担当するCREST/さきがけ「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」領域の研究推進に伴走する形でRISTEX内にゲノム関連技術に関するELSI/RRIの研究会合を設置するなど、研究開発法人であるという強みを生かし、最先端の研究開発とELSIの検討を同時並行、且つ相互作用しながら機動的に推進しています。
近年、現代社会と科学技術の相互作用はますます強くなる傾向にあり、その影響や意義の検討と対応の必要性が高まっています。2015年の国連持続可能な開発サミットで採択された持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals(以下、「SDGs」という。)や、ELSIはこのような相互作用の典型例とされています。これらの事例は、科学者・技術者だけでは解決できず、一般市民や人文社会科学系を含めた研究者など多様なステークホルダーとの対話・協働が必要と考えられており、社会技術研究開発のノウハウや、ステークホルダーとのネットワークを持つRISTEXが果たすべき役割は大きいと感じています。
RISTEXは、2019年度からSDGsの達成に貢献するための新たな研究開発プログラムをスタートさせます。SDGsの達成に向け、多様なステークホルダーと連携・共創し、自然科学や人文社会科学の知見による科学的手法を活用しつつ、社会課題や解決のボトルネックの明確化・シナリオ創出から社会課題のソリューション(実証事例)創出までを一体的に推進し、地域での確実な課題解決そして他地域への展開を目指していきます。
また、ELSI対応については、ELSIの解決に向けた調査・研究活動を促進するための体制を強化し、ELSI/RRIを基軸にした研究者及びステークホルダーとのネットワーク構築を意図すると共に、人文社会科学研究者のみならず広くELSI/RRIに関わる人材の育成・発掘を図っていきます。
今年は「ブダペスト宣言」の発表から20周年の節目の年であり、このような取り組みを通じて、社会技術への期待に応えていくとともに、社会の安寧に寄与していきたいと考えています。
(参考)
・JST-RISTEX HP:https://www.jst.go.jp/ristex/
・JST-CREST「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」HP: https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/ongoing/bunyah30-1.html
・JST-さきがけ「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」HP:https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research_area/ongoing/bunyah30-1.html
・持続可能な開発目標(SDGs)とは(国際連合広報センターHP):https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_
development/2030agenda/
・文部科学省 科学技術社会連携委員会「新たな科学技術の社会実装に係る研究活動における人文社会科学と自然科学の連携の推進について」(平成30年2月27日)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/092/houkoku/1410641.htm
科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター センター長
森田 朗(もりた あきら)
1951年生。東京大学法学部卒業。千葉大学、東京大学(法学政治学研究科、公共政策大学院)、学習院大学で教鞭を執った後、2014年から17年まで国立社会保障・人口問題研究所所長。17年4月からは、津田塾大学総合政策学部教授。広く行政、公共政策の研究に従事するとともに、多数の政府審議会等にも参加。中医協会長も務め、医療政策、人口問題を中心に、よりよい政策形成のあり方について研究。