第57回高圧討論会開催〜高圧力科学の最前線〜
(2016年10月15日)
長かった台風の季節も終わり、一気に秋らしい天気になったつくばですが、今月の26日から28日の3日間、筑波大学の大学会館をお借りして、第57回高圧討論会を開催することになりました。これは日本高圧力学会が主催し、高圧力をキーワードにした多様な分野の研究者が、年に一度集う研究集会で、つくばで開かれるのは今回で三度目になります。最初はつくば科学万博の前年1984年に開かれた第25回、今回と同じ筑波大学をお借りして開催されました。2回目が1995年に工技院(現産総研)で開かれた第36回討論会ですから、今回は20年の歳月をはさんでの開催となります。つくばには物材機構をはじめとして筑波大、高エネ研、産総研、農業食品産総研機構など、高圧研究を行っている研究室が数多くありますので、もう少し頻繁に開催しても良かったかもしれません。
さて、キーワードである高圧力について説明しておきます。大気圧(1013hPa=約0.1MPa)以上の圧力であるのは確かですが、法律によれば液化ガスは0.2MPa以上、圧縮ガスは1MPa以上が高圧ガスとなります。また産業機器に用いられる油圧装置は、通常数MPaで使用されており、数十MPaの油圧を高圧と呼ぶようです。我々が目にすることが出来る高圧力はこの位ですが、自然界には桁違いに高い圧力が存在します。マリアナ海溝の深さは1万メートル以上とされていますので、深海の圧力は100MPa、大気圧の千倍になります。既に人間の感覚を越えていますが、ここからが研究者の独壇場である超高圧領域になります。地球の地殻とマントルの境は33kmの深さで1GPa、マントルの底では140GPa、地球中心は360GPaと考えられており、木星や土星のような巨大ガス惑星の中心は、更に一桁高い数千GPaと推定されています。この様な超高圧は、計算器の中でしか扱えないと思われるかもしれませんが、地球中心程度の圧力は高圧力発生装置、それも手の平サイズの装置の中で実現しており、顕微鏡を使えば目で見ることが出来るのです。この装置はダイヤモンドアンビルセルといい、宝石のダイヤモンドを使って超高圧を発生させているのですが、説明は省略いたします。
このように、圧力は大気圧から数百万気圧までという、極めて広い外場環境を静的に制御できますので、その技術を利用した研究分野も広範囲に亘っています。先に例をあげた地球・惑星の科学は、惑星の誕生や進化だけではなく、我が国にとって重要な地震や火山といった地球活動のメカニズムを解明する研究テーマも含んでいます。また超高圧力により硫化水素が-70℃で超伝導を示すという昨年のニュースなどは、高圧力の物質・材料研究が、常に科学のフロントを牽引していることの証でもあります。最近では、生体やタンパク質をはじめとする生命科学にも高圧研究が普及し始めているだけでなく、食品をはじめとする有機物や流体の状態制御・加工に高圧力技術を展開する研究が注目を集めています。
今回、高圧討論会をつくばで開催するに当たり、討論会の一部をつくば市民や学生の方にお見せする、一般公開プログラムという催しを27日(木)午後に予定しています。「高圧力科学の最前線-地球の中から食卓まで-」と題して、高圧研究の幾つかの分野を俯瞰できるような講演(プレナリーレクチャー)と、つくばの研究機関の中でも基礎研究に特化している高エネ研機構長の特別講演が聴講可能です。高圧力学会の活動を多くの方に知って頂くことが目的ですが、同時に我々研究者自らが高圧力科学の社会性を再認識する契機になることも期待しています。市民と研究者を結ぶ双方向の視線を持つことが、これからの科学と社会にとって重要になると考えたからです。また今回の討論会を実施するにあたって、地元企業をはじめ多くの財団や沢山の方々のサポートを受けております。産官学の枠を越え、市民をも巻き込んだ科学の啓蒙と普及こそが高圧力科学が継続して発展する基盤になるものと考えておりますので、是非ご参加下さるようお願いいたします。
詳細はホームページ:http://www.highpressure.jp/new/57forum/ippankoukai.html
もしくは、つくば駅やつくば市各交流センター・児童館に掲示のポスターをご覧下さい。
亀卦川 卓美(きけがわ たくみ)
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 准教授
第57回高圧討論会実行委員長
専門は、放射光による高圧相転移の研究
趣味は、サッカー、モーターサイクル等