藻類の偉大な潜在力を力強い科学の力で見出し、利用する
(2017年5月01日)
現在知られている藻類は約4万種です。水域のみならず、土の上、雪の中などいろんなところに生育しています。しかし、まだ見つかっていない藻類も多いので、それを含めますと1000万種を超すと推定されています。コンブやワカメのように大型の種類もありますが、顕微鏡で見て初めてわかる微細な種が圧倒的に多い生命体のグループです。
この小さな生命体が、地球環境の創造に大きな役割を果たしました。約30億年前に原始地球に出現したラン藻類とそれから進化した多様な藻類の光合成により、それまで二酸化炭素が主成分であった大気が窒素・酸素が主成分の現在の大気に変わったのです。また、その結果としてオゾン層ができ、有害紫外線が地表に届かなくなったおかげで生物は水中から陸上に侵出できるようになりました。光合成でできた酸素は、水中に溶け込んでいた鉄を酸化して鉄鉱石をつくりました。1億年前に海域で大繁殖した藻類プランクトンは地殻変動で海底に蓄積し、石油資源となりました。このように私たちが生きていくのに不可欠な空気中の酸素、現在の文明の源である石油や鉄などができる元となった藻類が原始の地球に存在しなければ私たちも存在できなかったのです。
現在、その藻類に再び活躍してもらうための研究が、国内外で盛んに行われています。地球温暖化と化石エネルギー資源の枯渇という重大な問題を解決しながら、健康で心豊かな社会の形成とその持続的発展を実現するために、藻類を賢明に利用していくための研究です。
なかでも、藻類を機能性食品・化粧品、植物成長促進剤や防疫剤、水産飼料や畜産飼料、薬品や治療剤、化学製品や燃料として利用する技術開発が進んでいますが、各市場の状況は図に示すように非常に大きいものがあります。このうち、化粧品や機能性食品の分野では藻類および藻類由来成分を含む製品の生産と販売の伸びには著しいものがあります。藻類成分の入った化粧品の伸び率は高価なものでは20%、通常で10%程度といわれています。そのほかの分野でも藻類に対する期待は大きく、今後、様々な分野で技術開発と産業化が促進されていくことでしょう。
2015年7月に筑波大学に設置された藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センターは生物学、化学、化学工学、エネルギー工学、農学、健康・医学分野の教員・研究者が集まり、藻類がもつ大きく多様な潜在力を科学の力で見出し、多様な産業分野に応用していく、世界でも類をみない学際的な研究センターです。
つくば万博記念財団・エキスポセンターが主催する藻類の特別展示(4月22日~6月30日)では、十数枚のパネルで藻類の性質と潜在力がわかりやすく説明されており、藻類という小さな生命が果たしてきた偉大な姿を知ることができます。また、現在記載されている藻類には学名しかついておらず、和名のない種が多くあります。和名がついていない代表的な藻類について、来場者の皆さまから和名を募集しています。エキスポセンターでは、その中からいちばん適しているものを選び、日本藻類学会に報告する予定です。選ばれた和名は永遠に残ります。奮って応募してください。
渡邉 信(わたなべまこと)
筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター 特命教授
国立環境研究所生物圏環境部長、筑波大学生命環境系教授、藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長を経て、現職。この間総合科学技術会議環境・エネルギー担当参事官、日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員、国際藻類学会会長およびアジア・オセアニア藻類イノベーションサミット国際委員会委員長を歴任。福島県再生可能エネルギー次世代技術開発事業藻類バイオマスエネルギープロジェクト・リーダー。著書に「新しいエネルギー 藻類バイオマス」(みみずく舎/医学評論社)、「藻類ハンドブック」(NTS社)など。