[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

2年目を迎えた「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」のご紹介

(2020年5月15日)

 2015年9月の国連総会で採択された2030アジェンダ(われわれの世界を変革する:持続可能な開発のための2030 アジェンダ)には、「誰一人置き去りにしない (No one will be left behind)」という基本理念の下、17の持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)と169のターゲットが掲げられています。この2030アジェンダでは我々が直面する課題として貧困、飢餓、不平等などの他、気候変動、自然災害などが挙げられており、これらの課題への取り組みが期待されています。

 このような背景のもと、自治体によるSDGsの取組を推進するため、経済・社会・環境の3側面における新しい価値創出を通じて持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い都市・地域が「SDGs未来都市」として国により選出されています。つくば市もこの「SDGs未来都市」の一つに選ばれ、最先端の科学技術、世界に開かれた多様性などのつくば特有の資産を生かし、地域や地球社会が直面する少子高齢化、貧困と格差、気候変動などの課題を克服し、未来の世代そして世界に共通する使命を果たす「持続可能都市」を、令和2年3月19日に宣言しました。

 科学技術の最先端都市であるつくば市の取り組みにもあるように、SDGsの達成のためには科学技術イノベーション(STI: Science, Technology and Innovation)が大きな役割を果たすことが期待されています。科学技術は、現代において社会経済成長の駆動力となっており、AI、IoT、ビッグデータ、5G、ロボティクス、ドローン、ブロックチェーンなどは、スマート農業、モビリティや流通、医療やヘルスケア等、日常生活に関連する分野でもすでに広く活用されています。時には既存の秩序を破壊してしまい、社会や人々の暮らしを大きく変えてしまうポテンシャルを持ったこれらの科学技術は、新しい技術であるが故に様々なリスクも抱えていることは確かですが、社会をトランスフォームし、誰ひとり置き去りにしない社会を作り上げるという高い理想を掲げるSDGsの実現にとって必要不可欠な推進力となっています。

 科学技術振興機構(JST)では昨年度(令和元年度)より、「SDGs の達成に向けた共創的研究開発プログラム」(英語名をSolution-Driven Co-Creative R&D Program for SDGs(略称:SOLVE for SDGs))を開始しました。本プログラムは、社会課題の解決に取り組む当事者と実施者が協働するためのネットワークを構築し、共創的環境下で自然科学と人文・社会科学の知識を活用した研究開発を推進して、現実社会の具体的な課題解決に資する成果を得るとともに、得られた成果の社会での活用・展開を図るものです。

 

 

 本プログラムはSTIを活用して特定の地域における社会課題を解決し、その成果を事業計画にまでまとめあげて、国内外の他地域に適用可能なソリューションとして提示することを目標としています。その際、まず技術ありき(Seeds-Oriented)ではなく、あくまで「社会問題の解決」がベースにあり、”Solution-Driven”を念頭におきながらバックキャスティングの手法によりケースバイケースで適切なSTIを手段として活用し、課題を解決していきます。その結果得られたソリューションは、本プログラムにおける研究開発プロジェクトが終了した後も他地域へも広く展開可能なものとなり、さらにはSDGs の達成に向けて大きなインパクトを生むものになることが期待されます。

 本プログラムでは、研究代表者と、地域で実際の課題解決にあたる協働実施者が、ペアで研究提案を行い、一体となって研究開発を実行していきます。自然科学や人文社会科学の知識や技術、さらにはステークホルダーとの対話・協働を通じて得られる「現場知・地域知」(現場や地域でこれまでに直面した問題の解決やその判断、事後の反省といった経験や知見)なども活用し、「シナリオ創出フェーズ」と「ソリューション創出フェーズ」の二段階構成で SDGs の達成に貢献する成果の創出を目指します。

 「シナリオ創出フェーズ」では、対話・協働を通じて地域における社会課題を分析して問題点を明確化し、科学技術を活用して社会課題を解決する新たな社会システムを想定して、可能性試験などによるエビデンスも得ながら、SDGs を達成するための構想(シナリオ)を創出します。そして、「ソリューション創出フェーズ」では、すでに作成されたシナリオに基づいて研究開発を行い、地域における実証試験を経て課題解決策の有効性を示すとともに、他地域に展開するための適用可能条件や環境設定を明らかにします。また、研究開発プロジェクト終了後の自立的継続のための計画(事業計画)の策定と、計画実行の準備を行っていきます。これら二つの創出フェーズにより研究開発を推進していきます。

 昨年度は本プログラム発足後初めての公募となりましたが、公募開始当初より多くの皆様から関心をお寄せいただき、大学をはじめとする研究機関、民間企業、NPO、自治体などから計134件(シナリオ創出フェーズ107件、ソリューション創出フェーズ27件)のご応募がありました。ご応募いただいた提案はいずれも、SDGsの観点において解決の期待される社会課題としての重要性はもちろん、提案者の課題解決に向けた動機や熱意が強く感じられるものでした。選考におきましては、研究代表者・協働実施者を中心とするステークホルダーを巻き込んだ推進体制、技術シーズを社会課題解決に適用する具体的な道筋、プロジェクト終了後に成果創出の担い手(社会課題に取り組む当事者の代表など)が取り組みを持続的に展開・拡大していく可能性などを重視しました。書類選考、面接選考を実施した結果、最終的に下記の10件(シナリオ創出フェーズ7件、ソリューション創出フェーズ3件)の研究開発プロジェクトを採択しました。

 

 採択されたプロジェクトは、防災、福祉、医療、環境、人権、エネルギーなどの分野における社会課題の解決に関するもので、すでに研究開発活動を開始しています。本プログラムでは、採択プロジェクトに対する積極的なハンズオン支援を通じて、複雑化する地域社会課題を解決するための、ステークホルダーとの共創的な研究開発を推進しており、その活動の結果、社会をトランスフォームし、誰一人置き去りにしない強靭かつ包摂的で持続可能な社会の実現に資する、イノベーティブな生きた知見を創出することを目指していきます。

 「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE)」では、今年度も募集を開始しており、6月3日(水)正午が公募の締め切りとなっております。公募スケジュールの概要を以下に示します。

 

今後のスケジュール(予定)
 公募期間:令和2年4月3日(金)~6月3日(水)正午
 面接選考会:令和2年9月18日(金)、25日(金)、26日(土)
 採択プロジェクト決定、研究開発開始:令和2年10月中

募集の詳細は、  
令和2年度戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)提案募集https://www.jst.go.jp/ristex/proposal/current/proposal_2020.html をご確認ください。

 最後に、現在世界中で拡大している新型コロナウイルス感染症の問題は、私たちがこれまで経験したことのない状況をもたらしています。我々の日々の暮らしを一変させ、新たな社会課題を突きつけたり、思わぬリスクを顕在化させたりしています。世の中の持続可能性そのものが危うくなりかねない事態となってきており、今年はSDGsの意義を改めて考え直す年になると思われます。

 このような状況下ではありますが、みなさまの積極的なご応募を心よりお待ちしております。

 

科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
企画運営室 主任調査員
大河内 俊介

大河内 俊介(おおこうち しゅんすけ)  
      
1986年東京工業大学大学院総合理工学研究科電子システム工学専攻修了、NEC入社。以来、主につくば市内の産学独の研究機関にて化合物半導体表面物理、光半導体デバイス等の研究開発に従事。工学博士。2007~2008年筑波大学先端学際領域研究センター客員教授(兼任)。2019年より科学技術振興機構社会技術研究開発センター(RISTEX)主任調査員。