[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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ここに注目!

COP28で薄氷の合意 対策資金巡り深い溝

(2025年3月15日)

 気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」採択(2015年)から今年でちょうど10年になります。1997年採択の京都議定書は先進国(せんしんこく)だけに温室効果ガス排出削減を義務づけたルールでしたが、パリ協定は途上国を含む全ての国に削減の取り組みを求め、「画期的(かっきてき)」とも評価されました。

 実際、新興国(しんこうこく)・途上国(とじょうこく)で削減しない限り、パリ協定が掲げる「今世紀後半に実質ゼロ」は実現できません。ただし、途上国が対策を進めるには先進国などからの支援が必要なのが現実で、パリ協定は先進国に資金供与を義務付けています。

 2024年11月にアゼルバイジャン・バクーで開催された同条約第29回締約国会議(COP29)は、2025年以降の資金支援の目標額やドナー(出し手)の範囲が最大の焦点で、「ファイナンスCOP」と呼ばれました。

 それまでの目標額は「年1,000億ドル(約15兆円)」でしたが、途上国側からは年1兆㌦(約150兆円)の無償資金を求める声が上がるなど、まさに「桁(けた)違い」の要求がありました。気候資金に関する独立ハイレベル専門家グループ(IHLEG)がCOP29期間中に公表した報告書でも、中国を除く新興国、途上国での温暖化対策に必要な支援額は2030年までに年1兆㌦(約150兆円)、2035年までに1兆3,000億㌦(約195兆円)との試算が示されました。

 COP29直前に米大統領選でトランプ氏の返り咲きが決まり、米国がパリ協定を離脱してドナーではなくなることは確実でした。また先進国は、守れないような法外な目標に合意することは避けなければなりませんでした。

 最終的に、成果文書には「2035年までに官民合わせて1兆3,000億㌦、このうち先進国主導分として3,000億㌦」という目標が盛り込まれました。痛み分けとも言える結果ですが、採択の手続きが終わった後も途上国側からは「採択に反対する」といった非難の声がやみませんでした。COPで先進国、途上国の対立は常ですが、資金というどの国も譲歩することが困難なテーマの交渉で溝の深さが改めて浮き彫りになりました。

 2024年の世界の平均気温は暦年で初めて、産業革命前の水準を1.5度以上上回りました。これだけをもって、パリ協定の「1.5度に抑える」という目標が実現不可能になったとは言えませんが、極(きわ)めて困難な状況にあることは否定できません。

 気候変動の悪影響は深刻化の一途で、日本でも気候変動の影響による気象災害で甚大な被害が発生しています。条約事務局のサイモン・スティル事務局長は「気候資金は慈善事業ではない。インフレ圧力に拍車をかけるような災害の急増から世界のサプライチェーンを守るために、気候変動対策は極めて重要だ。何より多くの人の命が救われる」と訴えます。

 今年11月、ブラジル・ベレンで開催されるCOP30までに、「1兆3,000億㌦」への拡大を実現するための工程表を作ることが決まっています。世界の分断が深刻化し、しかも資金を巡る火種が残る中、国際社会が対策を加速させるという意思を改めて示すことができるか、COP30の成果が注目されます。

COP29最終盤で、先進国に資金目標額の引き上げを求めて声を上げるNGOメンバーら。アゼルバイジャン・バクーで2024年11月23日、UN Climate Change – Kiara Worth
(出典:https://www.flickr.com/photos/unfccc/54157999867/in/album-72177720322118940)

大場あい(おおば・あい)
2003年毎日新聞社入社。山形支局、科学環境部、つくば支局などを経て、2023年4月からくらし科学科学環境部に在籍。2018年度から気候変動影響や適応策に関するキャンペーン「+2℃の世界」を担当した。