[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

RISTEXにおける「総合知」と「トランスディシプリナリー研究」のご紹介 -Part1-

(2022年7月15日)

はじめに

 RISTEXでは、過去20年にわたって、複数の学問知の活用、アカデミアと現場の協働、セクター横断の取り組みなど、多様な知の組み合わせによる社会課題解決の研究開発に取り組んできました。これらの取り組みは、現代風に言えば、「総合知」創出の実践例と位置づけてもよいものではないかと考えています。少なくとも、自然科学と人文・社会科学の学際研究で社会との共創をこころみるトランスディシプリナリー研究(transdisciplinary research/TD研究)を実践してきたと言えると考えています。

ここでは、RISTEXにおける「総合知」による取り組み事例と、トランスディシプリナリー研究についてご紹介します。

 

RISTEXの「総合知」による取り組み

 我が国では「科学技術・イノベーション基本法」が令和3年度より施行され、人文・社会科学の役割の重要性がより一層増すとともに、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」においても、社会問題の解決や科学技術・イノベーションによる新たな価値を創造するために、社会的価値を生み出す人文・社会科学の「知」と自然科学の「知」の融合による「総合知」を用いた取り組みの重要性が指摘されています。

 RISTEXは、設立以来「社会のなかの科学・社会のための科学」の理念の下、「社会技術」を「自然科学と人文・社会科学の複数領域の知見を統合して新たな社会システムを構築していくための技術」と捉え、社会の具体的な問題の解決や科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への対応に資する社会技術の研究開発を進めてきました。研究開発を推進するにあたり、研究者と社会の問題解決に取り組む「関与者」(ステークホルダー)が協働するためのネットワーク構築を支援し、学問知だけでなく現場知も活用した研究開発に取り組んでいます。このような研究開発の取り組みを「総合知」の観点からとりまとめ、事例としてRISTEXの公式Webサイトで公開しています。以下ではWebサイトに掲載している一例を紹介いたします。

 

1.「総合知」活用による研究開発事例

発達障害者の特性別評価法(MSPA)の医療・教育・社会現場への普及と活用

(学術知×病院・学校・保育)

 

 本プロジェクトでは、特徴も程度も個々人によって多種多様である発達障害者の要支援度を客観的に評価し、且つ、本人や支援者にも分かりやすい評価尺度を開発・実用化し、社会の現場へ普及させるために、学術知(医学・心理学)と支援の現場(病院・学校・保育)の協働による研究開発を実施しました。

 精神医学の見地をもとに、本人への聞き取り調査や行動観察、認知機能の解析を行い、発達障害の要支援度を評価し、本人や支援者に一目でわかる形にしたレーダーチャートとして表示する評価尺度(MSPA:Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD)を開発しました。

 このレーダーチャートを医療・教育・社会現場に普及させるため、医師、公認心理師等の心理支援者、学校関係者など様々な関係者による協力体制の下で、医学や心理学等の分野をまたいだ研究者が、現場での支援に関する課題を整理し、発達障害者のライフステージごとの評価支援マニュアルを作成するとともに、評価者育成のための講習プログラムも開発し、定期的な講習会による専門家の育成に取り組みました。

 その結果、2016年4月には医療保険の適用となって医療機関での活用が広がるなど、包括的な支援システムの社会実装に繋がりました。また、国内のみならず、中国、ドイツ、ブラジル等、海外での活用も始まっており、今後の国際展開も期待されています。

 

 RISTEX公式Webサイトでは、この他にも複数の「総合知」活用による研究開発事例を掲載しています。

詳しくはこちらのサイトをご覧ください。

 

2.「総合知」活用に向けた領域・プログラムの設計事例

科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム

(「研究者」×政策課題を抱える「政策形成者」の連携・協働)

 昨今、客観的根拠に基づく科学技術イノベーション政策の形成(EBPM: Evidence-based policy making)の重要性が指摘されていますが、この実現は容易ではありません。研究により創出されたエビデンスをもとに、政策実装に向けたプロモーション活動が積極的に展開されたとしても、研究成果が実際に政策形成プロセスにおいて参照されるかどうか、またどのような形で参照されるかは、相当程度、政策当局および政策担当者の判断に委ねられざるを得ない状況にあります。

 研究開発を通じて、客観的根拠に基づく政策形成の実践へと具体的に展開していくことを目指す場合には、研究開発そのものがある程度現実の政策と関連付けられたうえで、実際に当該政策を担っている政策当局のニーズを捉えた取組が必要です。

 

RISTEX公式Webサイトでは、この他にも複数の「総合知」活用に向けた領域・プログラムの設計事例を掲載しています。

詳しくはこちらのサイトをご覧ください。

 

国立研究開発法人 科学技術振興機構 社会技術研究開発センター
広報担当