[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

RISTEXの2022年度新規プロジェクトが決定

(2022年10月06日)

はじめに

 国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(以下、RISTEX)は、現代社会が直面する社会問題の解決および科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への対応を通して、新たな社会的・公共的価値を創出するための研究開発を推進しています。

 2022年度は、4つのプログラムにおいて研究開発を推進する新規プロジェクトの募集を行ってきましたが、9月30日付けで、合計24の研究開発プロジェクト及び4つのプロジェクト企画調査を採択したことをリリースしました。

https://www.jst.go.jp/pr/info/info1580/index.html

 

SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム
(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)
https://www.jst.go.jp/ristex/funding/solve-koritsu/index.html

このプログラムでは、人口減少・少子高齢化、経済変動、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等の新興感染症による影響など、様々な社会構造の変化を踏まえ、社会的孤立・孤独のメカニズムを明らかにすると共に、社会的孤立・孤独を生まない社会像を描出し、人や集団が社会的孤立・孤独に陥るリスクの可視化や評価手法(指標等)、社会的孤立・孤独を予防する社会的仕組みの研究開発を推進しています。

 開発した評価手法(指標等)に基づいた、社会的孤立・孤独の予防施策の効果検証を含め、PoC(Proof of Concept:概念実証)までを一体的に行い、プログラムの実施を通して、人・組織・コミュニティ間の多様な社会的つながり・ネットワークを実現し、社会的孤立・孤独を生まない社会の創出を目指します。

 特に、2020年以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行により、対面による直接的なコミュニケーションが困難となり、社会的孤立・孤独の顕在化・深刻化がおこり、また、これまで社会的孤立・孤独から無縁だった人や集団も社会的孤立・孤独に陥るリスクが高まっています。今後、ウィズコロナ・ポストコロナの社会における望ましいつながり・ネットワークのありかたを追求し、これを積極的に構築していくことも必要です。

 今年度の提案公募では、顕在化した孤立・孤独の状態にある人々への支援施策等に係る先行知見も活用しながらも、社会の構成員全体を対象にして社会的要因の改善を目指し、そもそも社会的孤⽴・孤独を⽣まない社会的仕組みを創るという、抜本的な予防としての⼀次予防を重視した提案募集を行いました。

 その結果、高齢男性向けの新たな居場所(コミュニティ・シェッド)、社会的養護経験者(ケアリーバー)などに焦点をあてた6つの研究開発プロジェクトを採択しました。今年度の公募で強調した、社会的孤立・孤独の一次予防に向けた取り組みを推進していきます。

研究開発プロジェクト(課題名)

研究代表者

シチズンサポートプロジェクトによる社会的孤立・孤独の一次予防

伊藤 文人
(高知工科大学 フューチャー・デザイン研究所 講師)

オールマイノリティプロジェクト:発達障害者を始めとするマイノリティが社会的孤立・孤独に陥らない認知行動療法を用いた社会ネットワークづくり

大島 郁葉
(千葉大学 子どものこころの発達教育研究センター 教授)

都市集合住宅高齢者の社会的孤立を予防する持続可能なコミュニティ構築

片桐 恵子
(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科 教授)

いきいき・つながり職場づくり:孤立・孤独を予防する包摂組織の社会実装

川上 憲人
(東京大学 大学院医学系研究科 特任教授)

生きがいボランティアシステムの構築による社会的孤立・孤独の持続的な予防

島田 裕之
(国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター センター長)

社会的養護経験者(ケアリーバー)の社会的孤立を防ぎ、支援と繋がりながら自立を支える仕組みを創る

宮地 菜穂子
(同朋大学 社会福祉学部 准教授)

 

科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への
包括的実践研究開発プログラム
https://www.jst.go.jp/ristex/funding/elsi-pg/index.html

このプログラムは、科学技術が人や社会と調和しながら持続的に新たな価値を創出する社会の実現を目指し、新興科学技術がもたらす倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)を発見・予見しながら、責任ある研究・イノベーション(RRI)を進めるための実践的協業モデルの開発を推進しています。新興科学技術のELSIへの対応と責任ある研究・イノベーションの営みの普及・定着を目指し、研究・技術開発の初期段階から包括的・実践的にELSI/RRIに取り組む研究開発を推進しています。研究開発プロジェクトにおいては、科学技術と人・社会との間に生起する日本社会が抱える諸課題、あるいは具体的な新興科学技術を出発点として、研究者やステークホルダーの知を結集した実施体制で取り組んでいます。

 今年度の提案公募においては、責任ある研究・イノベーションの営みの普及・定着に資する、実践的協業モデルの創出に向けたELSI/RRIの研究開発を対象とし、対象とする新興科学技術の研究開発や事象について、すでにELSIが顕在化し事後的(ex-Post)だが解決のインパクトが大きなもの、研究開発の初期段階から予見的(ex-Ante)にELSI検討に取り組むべきもの、すでに社会実装が進んでいる科学技術だがELSI検討が急務なものなど、具体的な課題設定を求めました。

 その結果、ヒト脳改変、教育データ利活用(エドテック)、医療・ヘルスケア、ゲノム情報利活用、スマートコミュニティ、胎児治療介入技術に焦点をあてた6つの研究開発プロジェクトと、将来的な研究開発につながることが期待される4つの企画調査を採択しました。情報技術分野からライフサイエンスやジェンダーまで、幅広い分野でのELSIの研究開発に取り組みます。

研究開発プロジェクト(課題名)

研究代表者

ヒト脳改変の未来に向けた実験倫理学的ELSI研究方法論の開発

太田 紘史
(新潟大学 人文学部 准教授)

教育データ利活用EdTech(エドテック)のELSI対応方策の確立とRRI実践

加納 圭
(滋賀大学 教育学系 教授)

医療・ヘルスケア領域におけるELSIの歴史的分析とアーカイブズ構築

後藤 基行
(立命館大学 大学院先端総合学術研究科 講師)

公正なゲノム情報利活用のELSIラグを解消する法整備モデルの構築

瀬戸山 晃一
(京都府立医科大学 大学院医学研究科 教授)

コミュニティのスマート化がもたらすELSIと四次元共創モデルの実践的検討

出口 康夫
(京都大学 大学院文学研究科 教授)

「胎児-妊婦コンプレックス」への治療介入技術臨床研究開発に係るELSI

松井 健志
(国立がん研究センター がん対策研究所 生命倫理・医事法研究部長)

 

プロジェクト企画調査(課題名)

調査代表者

埋め込み型身体機能補完技術をめぐるELSI/RRIの検討基盤の構築に向けた企画調査

大沼 雅也
(横浜国立大学 大学院国際社会科学研究院 准教授)

ELSI研究における法学的アプローチの探究に向けた基礎的検討

笹岡 愛美
(横浜国立大学 大学院国際社会科学研究院 准教授)

FemTech(フェムテック)のELSI検討に関する企画調査

標葉 靖子
(実践女子大学 人間社会学部 准教授)

メタバースが拓く新しいサービスとELSIに関する企画調査

永井 由佳里
(北陸先端科学技術大学院大学 理事・副学長)

 

SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム
(シナリオ創出フェーズ・ソリューション創出フェーズ)
https://www.jst.go.jp/ristex/funding/solve/index.html

このプログラムでは、研究代表者と、地域で実際の課題解決にあたる協働実施者が、ペアで研究開発を行います。自然科学や人文社会科学の知識や技術、さらにはステークホルダーとの対話・協働を通じて得られる「現場知・地域知」(現場や地域でこれまでに直面した問題の解決やその判断、事後の反省といった経験や知見)なども活用し、「シナリオ創出フェーズ」と「ソリューション創出フェーズ」の二段階構成でSDGsの達成に資する成果の創出をめざしています。これら2つの創出フェーズにより、複雑化する地域社会課題を解決するためのステークホルダーとの共創的な研究開発を通じてイノベーティブな生きた知見を創出し、社会をトランスフォームするために研究開発を推進しています。

 「シナリオ創出フェーズ」では、対話・協働を通じて地域における社会課題を分析してボトルネックを明確化し、科学技術を活用して社会課題を解決する新たな社会システムを想定して、可能性試験などによるエビデンスも得ながら、SDGsを達成する構想(シナリオ)を創出します。

 「ソリューション創出フェーズ」では、シナリオに基づいて研究開発を行い、地域における実証試験を経て課題解決策の有効性を示すとともに、他地域に展開するための適用可能条件や環境設定も提示します。また、研究開発プロジェクト終了後の自立的継続のための計画(事業計画)の策定と、計画実行の準備を行っていきます。

 このプログラムが対象とするのは、現実の社会課題を解決するための取り組み自体であり、社会課題の解決のために活用する技術シーズが既にあることが必須条件となります。従って、技術シーズの研究開発そのものは対象にはなりません。今年度の提案公募においても、SDGs の達成に向けて、地域における社会課題に対するソリューションを創出するため、既に得られている技術シーズを活用した SDGs達成のアイデアを元に、地域の課題解決を行う提案を募集しました。

 その結果、ミュージアム活用、豪雪中山間地、児童の性虐待、離島の発達障害児医療におけるシナリオ創出、流域治水、脱炭素スマート農地、チャットボットの活用、子どもの自殺に焦点をあてたソリューション創出に取り組む合計8つの研究開発プロジェクトを採択しました。

【シナリオ創出フェーズ】

研究開発プロジェクト(課題名)

研究代表者

協働実施者

市民のSDGs取組に向けた行動変容のためのミュージアム活用シナリオの創出

佐々木 亨
(北海道大学 大学院文学研究院 教授)

佐久間 大輔
(大阪市立自然史博物館 学芸課 課長)

高速データ通信とAI技術による豪雪中山間地における新しい健康づくりのためのシナリオ創出

菖蒲川 由郷
(新潟大学 大学院医歯学総合研究科 十日町いきいきエイジング講座 特任教授)

髙津 容子
(十日町市 市民福祉部 地域ケア推進課 課長)

性虐待などの被害児が心身の回復につながる医療機関をハブとするCAC(Children’s Adovocacy Center)モデルの構築

田上 幸治
(神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 臨床研究所 部長)

溝口 史剛
(前橋赤十字病院 小児科 副部長)

離島の発達障害児医療におけるアバターロボットの活用支援体制の構築

永田 康浩
(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 教授)

熊﨑 博一
(長崎大学病院 地域連携児童思春期精神医学診療部 診療部長)

【ソリューション創出フェーズ】

研究開発プロジェクト(課題名)

研究代表者

協働実施者

流域治水に資する動的運用ルールの共創手法の構築と展開

沖 大幹
(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

経澤 陽一
(富山市 建設部 河川整備課 課長)

ソーラーシェアリングを活用した自立型脱炭素スマート農地の確立と展開

倉阪 秀史
(千葉大学 大学院社会科学研究院 教授)

馬上 丈司
(千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役)

神経多様性に応じたチャットボットの地域連携モデルの構築および他対象・多地域展開

佐々木 銀河
(筑波大学 人間系 准教授)

竹田 一則
(筑波大学 DACセンター 業務推進マネージャー)

地域の医療・保健・福祉・教育・市民等が連携して自殺ハイリスクの子どもを守る社会システムのソリューション創出

立花 良之
(国立成育医療研究センターこころの診療部 診療部長)

河西 千秋
(札幌医科大学 医学部 主任教授)

 

科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム
https://www.jst.go.jp/ristex/funding/stipolicy/index.html

このプログラムは、客観的根拠に基づく科学技術イノベーション政策の形成への寄与を目的に、政策ニーズも踏まえつつ、政策形成の実践に将来的につながりうる、新たな発想に基づく研究開発成果の創出を目指しています。そのために、研究開発プロジェクトを公募し、現実の政策形成に活用しうる新たな解析手法やモデル分析、データ体系化ツール、指標等の開発や制度設計のための研究開発を推進しています。幅広い分野と関連する学際的分野で、関与する研究者の層を広げ、あわせて、その活動状況を社会へ広く発信して対話の場を作り、コミュニティ・ネットワークの拡大を図っています。国や地方公共団体の政策形成プロセス、および大学・シンクタンク・企業・NPO・市民など幅広い主体における政策形成の実践に将来的につながりうる研究開発を対象としています。

 今年度の提案公募においては、これまで取り上げてきたテーマ、すなわち人口減少と高齢化、逼迫する財政といった近代社会がこれまでに経験したことのない未曾有の社会的変化を的確にとらえ、先端技術の導入・活用はもちろん既存技術の社会化・制度化を通じて環境変化に適応していくことを目指す研究開発に加え、昨年度に引き続き、政策当局の側で具体的な政策課題が明確に認識、整理されており、その解決方法の探求や既存の施策の改善に向けて、科学的知見をはじめとした具体的な知見の創出と提供を求めるような類型の研究開発も、共進化枠として募集対象としました。

 その結果、成育医療・母子保健領域、新興感染症、原子燃料サイクル政策の分野を対象とした3つの研究開発プロジェクトに加え、共進化枠として、スポーツ政策を対象とした研究開発プロジェクトを採択しました。これにより、政策形成に貢献する研究開発に取り組みます。

研究開発プロジェクト(課題名)

研究代表者

政策形成過程における科学的知見の活用最大化のための中間人材の可能性について ―成育医療・母子保健領域を事例とした分析と実証―

千先 園子
(国立成育医療研究センター こころの診療部 児童思春期リエゾン診療科 医員/こどもシンクタンク企画調整室 副室長)

新興感染症に対する非特異的対策のための行動変容と科学コミュニケーションに関する合理化および最適化研究

西浦 博
(京都大学 大学院医学研究科 教授)

原子燃料サイクル政策の受容に対する熟議的アプローチ:感情と技術の作用機序に着目して

林 嶺那
(法政大学 法学部政治学科 准教授)

スポーツ参加の促進要因の探索と支援政策の評価研究 - 国・自治体・個人レベルの重層的アプローチ(共進化枠)

近藤 克則
(一般社団法人老年学的評価研究機構 代表理事)

 

国立研究開発法人 科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(JST-RISTEX) 
広報担当