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「はやぶさ2」便り5 ~ リュウグウとベンヌは似てるが・・・違う! ~

(2019年5月02日)

図 母天体からリュウグウの進化のシナリオ
母天体での加熱脱水、最初の衝突(ポラナ、オイラリアの形成)
最後の衝突によるラブルパイル天体リュウグウの形成までのシナリオ
2019/3/20 JAXAプレスリリース 
小惑星探査機{はやぶさ2}観測成果論文のScience誌掲載について に一部加筆
提供:杉田精司ら 

 3月20日、米国ヒューストンで開催中の惑星科学に関する重要な学会(LPSC2019)で、「はやぶさ2」によるリュウグウ観測の結果と、米国のオシリス・レックスによるベンヌ観測の結果が同日発表になった。あわせてそれらの結果は、「はやぶさ2」がサイエンス誌、オシリス組がネイチャー誌と世界を代表する科学誌に掲載、国際的にも大きな注目を集めた。史上初めて同日に、2つの小惑星の観測結果が公表されたのだ。

そこで明らかになった主だった成果をみてみよう

・リュウグウの平均密度は1立方cmあたり1.19g、ベンヌも全く同じ1.19g(水よりちょっと重いだけ)これで両方とも半分くらいすきまのある、小石や岩が集まっただけの「ラブルパイル」天体と確定した。

・リュウグウの光の反射率は約2%しかない(真っ黒に近い)、太陽系で最も暗い天体

・ベンヌの近赤外スペクトルからはかなりな量の水が検出された
  リュウグウからは少ない量の水しか検出されなかった
  リュウグウの近赤外スペクトルは、500度を超える加熱を受けたC型隕石によく似ていた(過去に加熱脱水があったのか?)

・リュウグウの表面は大きなクレータの分布からは数億年と考えられたが、小さいクレータが少なく、その分布からは百万年程度しかたってないことがわかった。表面は衝突などで結構ゆすぶられてクレータが消されるなど、常に更新していると考えられる

・コマ形の形状は、かつてリュウグウが3.5時間ほどで自転していたときに、表面物質が遠心力によって赤道付近に“ずり落ちた”、あるいは全体が変形した、と考えると力学的に整合する(ベンヌでも同様のことが起こった)

・ベンヌからは数度にわたって物質が宇宙に放出されていることが観測された。「活動的小惑星」の初めての詳細な観測

 (4月時点でリュウグウで同様の現象は観測されていない)

 これだけでも驚くべき結果だが、リュウグウはスペクトルの特徴から、その母天体が火星と木星の間にある大きさ数十kmの「ポラナ」か「オイラリア」である可能性が高いとの発表もなされた。リュウグウとベンヌよく似た性質を持つ小惑星だが、水の量の大きな差異からその進化の過程はかなり違ったものと考えられている。 

 図に示すように、太陽系形成期に出来上がった天体の中で加熱脱水が進み、その後におこった天体衝突で砕けた破片が再び集まってリュウグウの母天体が形成され、最後の衝突を経て今のリュウグウが出来上がったという進化のシナリオも発表された。

 神戸大学の臼井らによる日本の赤外線天文衛星「あかり」を用いた研究によれば、C型小惑星の水の吸収(近赤外域の2.7ミクロン付近に存在する)の深さ(水の含有量と相関する)と吸収のピーク波長には関連があり、観測されたリュウグウとベンヌの吸収のピーク波長を重ねると図上にぴたりとあてはまる、これは二つの天体の加熱脱水進化の時間的な差を示しているのかもしれない。リュウグウはベンヌより古くて長い時間かけて脱水したのか、それとも最初から少ない水しかもっていなかったのか、それらの歴史は太陽系の成り立ち、地球の水や有機物の起源にもかかわる大きな謎をもたらした。

 2020年末にリュウグウのサンプルがもたらされ、詳しい解析がなされたとき、そんな謎の答えが明らかになることが期待される。

 

   図 C型小惑星の吸収ピーク波長と吸収の深さの関係(赤外線天文衛星「あかり」による)
       リュウグウはピークが2.72μ付近で弱い吸収(水の量が少ない)
       ベンヌはピークが2.74μ付近で比較的深い吸収(水の量がほどほどある)     
       提供:臼井文彦(神戸大学)

 

速報:「はやぶさ2」は4月5日にインパクタを爆破させクレータ生成に挑戦、弾頭が表面に高速で衝突したことが確認された。4月25日に行われた低高度運用にて生成された10mにも及ぶクレータが確認された。クレータ内あるいは周辺の内部物質が飛びちった場所からの2回目のサンプル採取の実施については現在検討中。

 

小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
 NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。