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「はやぶさ2」便り7~ リュウグウでの500日を終えて ~

(2019年11月15日)

 2019年11月13日、ロケットエンジン噴射。秒速9.2cmで「はやぶさ2」はリュウグウをゆっくり離脱、地球への1年に及ぶ帰還の旅を始めた。
 2018年6月末にリュウグウ到着してからおよそ500日、2005年の「はやぶさ初号機」での小惑星イトカワ滞在は100日にも満たなかったことを思うとずいぶん長い滞在となった。
 その間、表面への近接観測、複数のミネルヴァやマスコット・ローバーの分離投下、2回のタッチダウン、インパクターによるクレータの形成など予定されたすべてのイベントをやり終えた。これらの内容については本コラム 「はやぶさ2」便り1~6 を読んでもらいたい。

 私は7月掲載の 「はやぶさ2」便り6 をこう締めた

 「さあ、母なる地球へ、帰還の準備を始める時が来た」

 7月11日の第2回目タッチダウンで主要なミッションは終わったはずだった・・・
がチームは残された時間を使って当初想定もしなかった新たな挑戦を行った。

 搭載装置の異常で表面での動作が難しくなったミネルヴァⅡ2をリュウグウの重力を測定する目標としてその周りを周回させるプランである。 そのリハーサルとして、まだ3個残っているターゲットマーカに白羽の矢が立った。「本来は表面で動かないマーカーとなるべき2個を、リハーサルとしてリュウグウの極をまわる軌道と赤道を回る軌道に一個ずつ投入、その運動をカメラで追っかけてリュウグウの重力場を測ろう!」という想定外のチャレンジだった。
 9月17日にそれは実行され、高度約1kmで秒速11cmというゆっくりしたスピードで2個のターゲットマーカを分離。リュウグウを5周ほど回った後表面に着地、重力計測のデータ取得に成功した。分離時の連続映像を示す。

 続けて10月3日、ミネルヴァⅡ2を高度1kmで分離、これもリュウグウを回る軌道に投入。1日後表面に着陸、ミルヴァはその後も電波を出し続けていることが確認されている。

 こうして「はやぶさ2」のすべてのリュウグウでの活動が終了した。

 500日にも及ぶ「はやぶさ2」のリュウグウ探査の成果は何だろう、すでに「サイエンス誌」等には様々な観測機器によるリモートセンシングの結果が発表されている。2か所の表面及びクレータ内部の物質サンプルは、帰還後に地球で詳細に分析されることで、太陽系の原始の姿、地球の海や有機物の起源に迫る研究材料になることは言うまでもないが、それ以外にも人類史的な意義があると私には思える。

 リュウグウ表面には3基のミネルヴァ、マスコット1基、4個のターゲットマーカ、そして2か所のタッチダウンに起因する痕跡、大きさ13mにも及ぶ“おむすびころりんクレータ”が残された。これらは21世紀のある時点でチャレンジを繰り返してようやくここまで人類がやって来た小さいけど確かな未来への刻印ではないだろうか。

 

 11月13日、10:05(機上での時刻)エンジンを噴射、一路帰路へ・・・・

 「はやぶさ2」は打ち上げからリュウグウ到着までは地球スイングバイをはさんで3年半もの長い時間がかかっている、帰還は約1年。どうしてこんなに違うんだろう。
 往路はリュウグウ到着時に両者の“位置と速度”を合わせてランデブーする必要があった。それに対して復路は地球と“位置”が合えば速度は合わせないで済むからだ。
 地球大気に秒速11kmを超える猛スピードでカプセルを突入させると、地球大気が“やさしく”それを受け止めてくれるからだ。実はこれくらい過酷な受け止めは無い、突入したカプセルの表面は3000度を超える高温にさらされ、それに耐えなければ地球にサンプルを届けることはできないのだが。

 地球には分離されたカプセルだけが戻ってくる、「はやぶさ2」本体はカプセル分離後ロケットエンジンに点火、地球をすり抜けるように飛行、スイングバイを行い別な目標に向かうことがすでにJAXAから発表されている。

「はやぶさ2」はこの時もう一度よみがえる 
その日まであと1年

 

小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
 NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。