[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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おうちで出来る楽しい理科実験 ~色のついた水を凍らせると「色のついた氷」になるのか?~

(2024年5月15日)

図1. 食用色素( 色は赤、青、緑、黄、紫。)

 台所で冷凍庫を使って出来る、簡単だが化学物理として奥の深い実験を紹介する。図1のように、食用色素(スーパーマーケットではケーキ作りコーナーなどに各種ある)で色をつけた水を容器にいれ、冷凍庫で凍らせて観察しようというテーマである。

 

■実験のポイント

 最近の冷凍庫は性能がよく急速に凍るので、冷凍庫の構造による凍り方がそのまま反映されてしまう場合がある。そのため、ここではわざと時間をかけてゆっくりと凍らせてみる。

 すなわち、沸騰した湯から40℃程度にさましたものを使う。着色後、ペーパータオルで包み、段ボール箱に入れ、さらにタオルでも包む。そして20時間以上冷凍庫の中心付近に放置する。図1に示したものは、5色で、容器はプラスチック製、上部の直径72mm、底部の直径50mm、高さ65mmである。水(お湯)は90g、色素は0.5gで、加えたあとよくかき混ぜる。

 

■食用色素の場合

 21時間後に取り出したものが図2(左)である。緑色の場合である。下からライトをあてている。全体としてきれいな薄い緑色だが、中心付近のやや底のあたりに濃厚な緑の塊がある。底の方から見たものが図2(右)である。濃厚な緑の塊から筋が出ている。

図2. 食用色素の緑色。
(左)斜め上からの写真。中央部から底面にかけて濃厚な緑の塊がある。
(右)底の方から見たもの。

 

 紫色の場合を図3(左)、図3(右)に示す。緑色に比べて、透明性があってきれいだ。濃厚な塊が大きい。透明な部分と濃厚色の部分の明るさの対比が大きい。

図3. 食用色素の紫色。
(左)かなり大きな紫の塊になっている。
(右)底の部分。

 

■牛乳の場合

 色の実験をしているうちに、白い液体ではどうなるだろうと思い、牛乳で同様の実験をしてみた。高さ90mmの容器を使い、水124g、牛乳16gを入れて凍らせた。図4がその結果である。全体として白っぽさがあるが、やはり、中心部のやや下の底に近い部分に白い固まりが出来た。

図4. 牛乳の場合。

 

■インクの場合

 以上の食用色素の実験から、色素による差があることがわかったので、インク(ラミー、カートリッジ0.5本分)を使ってやって見ようと思い立った。容器も直径110mmのものにした。結果は図5(左)である。斜め上から見た写真である。「赤い氷」は、明らかに中心部にかたまりのように出来ている。図5(右)はやや融(と)けた状態のもの。周辺部の透明性もよくきれいだ。

図5. 赤いインク
(左)大きな容器に着色したもの。中心に大きな赤い塊が出来た。
(右)やや融けた状態のものを上から見た。

 

■なにが起きているのだろう?

 これらの実験(図2~5)では、氷の全体が一様に着色してはいない。それは、極めて一般的な性質で、統計力学的に説明することが出来る[1]。図6のように水に色素のような不純物とみなされるものが溶けていると、それは一様に広がっていく傾向がある。特定の領域に集中したりはしない。

 

図6.液体と不純物の様子
(左)液体(青玉で表示)中で不純物(赤玉)は全体に一様に広がろうとする傾向がある。
(右)不純物とみなされる色素分子は全体に広がろうとするが、周辺の水が凍ってくると液体を保つため集まってくる。

 

 その状態で温度を下げると、水分子は凍る(固体になる)が、それを不純物系は妨害することになる。統計力学的性質によって不純物集団の存在する空間(体積)を大きくしようとするためである。これが不純物による「凝固点降下(ぎょうこてんこうか)」である。全体が固体になる温度を下げてしまう[2]。

 

■最後に

 最後にもっと大きな四角い容器での実験をやってみた。横160mm、奥行き120mm、高さ80mmである。ここへ860gの水を入れ、赤インク(ラミー、カートリッジ1.5本分)で着色した。40時間冷凍庫に入れた。結果は図7である。予想に反して、全体の透明性はよくなかった。氷の上面もかなり乱れてしまった。しかし、やはり中心下部に濃厚な赤い塊が出来、細かな筋が沢山斜め上方に向かっていた。筋の太さ、長さ、発生している面密度は一定のようだ。「神は細部に宿り給う」と言うが、特に化学と物理の広い境界領域には沢山の汲めども尽きない研究テーマがある。

図7. 大きな四角い氷の場合。スケールは机の上に置いてある。
氷の横幅は16cm。厚み6cm。
 

 

【参考】

[1] 夏目雄平「やさしく物理~力・熱・電気・光・波」(朝倉書店)第2刷が出ました。

[2] 夏目雄平「やさしい化学物理~化学と物理の境界をめぐる~」(朝倉書店)第3刷が出ました。

[3] 理科の探検(SAMA企画)2018年6月号 p.48。

 

夏目 雄平(なつめ ゆうへい)
千葉大学名誉教授・グランドフェロー(国際教育センター)。固体物性物理学専攻。最近の著書に「やさしく物理」(朝倉書店)、「やさしい化学物理~化学と物理の境界をめぐる」 (朝倉書店)など。 「理科の探検」 (SAMA 企画)編集委員など。文系の著書に「小さい駅の小さな旅案内」 (洋泉社新書)など。各地でサイエンスイベントを行っている。NHK-TV「世界オモシロ学者のスゴ動画祭」に2回出演。
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