ちぎれた葉から、どのようにクローン個体が再生されるのか?
(2019年12月16日)
図1 栄養繁殖を行うRorippa aquatica
(A)植物の栄養繁殖の性質を活用した農業や園芸での繁殖手法。(B) Rorippa aquatica (C)クローンを再生しているRorippa aquaticaの葉片。根元に近い側である基部側(写真下側)の断面からのみクローンが再生する。(D) Cの葉片から切り離したクローン。根と葉が揃っており、1個体として生育できる。スケールバーはそれぞれ(B)が5 cm、(C)と(D)が1 cmを示す。Amano et al.(2019)の図を改変。(画像提供/京都産業大学生命科学部産業生命科学科 木村成介教授)
体の一部から個体を再生させるような植物が知られています。例えば、ジャガイモ。その芋を種芋として、次々に個体を増やすことができます。サツマイモの塊根やイチゴの匍匐枝、ソメイヨシノの挿し木なども同様です。このように、体の一部から、遺伝的に同一なクローン個体が再生される現象を栄養繁殖と呼びます。聞き慣れない言葉かもしれませが、栄養繁殖は作物や花きの生産において、広く応用されています。ところが、栄養繁殖のメカニズムについては、まだ多くの謎が残されています。もしそれらのメカニズムが明らかになれば、栄養繁殖をしない作物や花きなどがより効率的に生産できるようになると期待されています。
このほど京都産業大学の木村成介博士を中心とする研究グループは、葉から個体を再生する植物を用いて、栄養繁殖のメカニズムを解明しました。この研究成果は国際学術雑誌『Plant and Cell Physiology』に掲載されています。
研究グループが着目したのは、アブラナ科のRorippa aquaticaという植物です。この植物は、北米の湖畔や川辺、池のほとりなど水辺に生育し、水中でも陸上でも暮らすことができます。水流などにより葉がちぎれると、その葉の断片から根や茎、葉を再生させる特徴を持っています。このとき、ちぎれた葉のうち、もともと葉の根元に近いほう(基部側)からのみクローンが再生します。再生するまでの時間は2週間ほど。ふつう、栄養繁殖を行う植物の多くは再生するまでに1~2か月ほどかかります。さらに、モデル植物のシロイヌナズナと近縁なため、遺伝情報などを比較することが可能です。このように、Rorippa aquaticaは栄養繁殖のメカニズムを分子レベルで解明するのに、とても適した植物なのです。
研究グループは、まず、クローンを再生するのは、葉脈をつくる維管束の細胞であることを明らかにしました。次に、トランスクリプトーム解析という方法を用いて、再生に関わる遺伝子を網羅的に解析しました。その結果、根、茎、葉を形成するのに関わる遺伝子群は、葉の基部側でのみ活性化していることがわかりました。
さらに、ちぎれた葉の先端側(元々の葉の根元から遠い方)で植物ホルモンのオーキシンが合成され、そのオーキシンがちぎれた葉の基部側に運ばれて蓄積することもわかりました。蓄積したオーキシンが引き金となり、新たにクローンが再生されていたのです。このとき、ジベレリンやサイトカイニンといった植物ホルモンが根や葉の形成に関わっていました。
今回の研究により、栄養繁殖のメカニズムの一端が明らかになりました。これらの研究は、作物や花きの生産だけでなく、絶滅が心配される植物の繁殖などへの応用につながるものと期待されます。
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記事執筆:保谷彰彦
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