[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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イタチザメと協力して世界最大の海草草原を発見

(2022年12月15日)

 このほど、海洋保護に取り組む国際NGO「Beneath The Waves」(アメリカ)を中心とする研究グループは、イタチザメの協力を得て、地球上で最も広大な海草の草原を発見しました。この海草草原は、バハマ諸島の沖合に広がる「バハマ・バンクス」に位置し、その面積は少なく見積もっても6万6,000平方km、最大で9万2,000平方km にも及ぶことがわかりました。これは、フロリダ州のほぼ半分に相当する面積です。

 近年、海草の草原(海草群落)の重要性が認識されるようになっています。海草が広がる海底では、多くの生物が生活し、海の生き物の多様性が生み出され、私たちの生活を支える水産資源が豊富です。さらに、海草草原は大量の炭素を堆積物として貯蔵することができ、一年間に海洋堆積物に埋もれる有機炭素全体の17%に相当すると推定されています。

 ところが、ここ数十年で海草草原が急激に減ったことで、炭素貯蔵量が減少するのと同時に、大量の二酸化炭素が大気中に放出されています。したがって、海草草原の保全は、そこに生息する多くの絶滅危惧種や水産資源を保護するだけでなく、温室効果ガスの排出を管理する上でも、世界的に極めて重要になっています。

 海草生態系を保全するためには、その分布域に関する正確な情報が必要です。しかし、多くの海域で海草のマッピングは進んでいません。その理由の1つに、海底に生える海草をリモートセンシングの技術で解析することの難しさが挙げられます。そのため、未発見の海草草原がたくさんあると予想されています。

 実際に、オーストラリア本土とグレートバリアリーフの間には、4万平方kmにも及ぶ海草の草原がありますが、それが発見されたのは2009年のことです。グレートバリアリーフは世界的に有名な国立公園であり、世界で最も熱心に研究されている海洋生態系の一つであるにもかかわらず、です。

 このような背景から、研究グループでは、衛星観測をもとに、ダイバーたちがのべ2,542回にわたって海に潜り、海草草原を観察しました。さらにチームは、8匹のイタチザメの協力を仰いだのです。

 どういうことかというと、アフリカのサバンナでシマウマにつきまとうライオンのように、サメはエサとなる魚類などを探すために海草の生えている場所をパトロールするように泳ぐことがわかっています。そこで、サメを捕まえては、1匹ずつボートに引き上げ、カメラと追跡装置をサメの背中に取り付けてから、再び海に放して自由に泳がせたのです。そして、サメの行動記録をもとにして、海草の育つ範囲を調べていったのです。

 今回の発見により、海草が覆う世界の推定面積は41%も拡大しました。海草は、熱帯雨林の約35倍の速さで、数千年にわたり炭素を隔離、つまり貯蔵することができます。研究チームは、今回新たに地図上に示された海草草原では、6億3,000万トンの炭素が貯蔵されていると推定していますが、これは世界中の海草草原に貯蔵されている炭素の約4分の1に相当します。

 研究グループでは、より多くの海草草原を発見するために、マンボウを含む他の動物たちとの共同研究を計画しているそうです。

A. B. グレート・バハマ・バンク南部に広がる海草の草原。厚さ約1メートルの根圏が露出している(画像:Cristina Mittermeier)。C. リトル・バハマ・バンクで海草の上を泳ぐイタチザメ(画像:Austin Gallagher)。D. グレート・バハマ・バンク北部に広がる海草草原を泳ぐ、カメラ搭載のイタチザメからの画像(画像:Tiger Shark from study)。Gallagher A.J. et al. (2022) Nature Communications. 13: 6328, より引用。

 

【参考】

Gallagher A.J. et al. (2022) Tiger sharks support the characterization of the world’s largest seagrass ecosystem. Nature Communications. 13: 6328. https://doi.org/10.1038/s41467-022-33926-1

保谷 彰彦 (ほや あきひこ)
文筆家。植物学者。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に新刊『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。
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