[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

イヌは顔の表情でコミュニケーションをとっていた!?

(2017年12月01日)

今回の研究によって、イヌが私たちに向かって表情をつくっていることがわかった。

 笑ったり、泣いたり、怒ったりといった顔の表情は、私たち人間にとって、言葉以上にコミュニケーションを円滑に図る上で重要な要素となっています。しかし、動物の顔の筋肉は柔軟性が乏しく、人間のような豊かな表情をつくり出すことはできないため、コミュニケーション上、表情はそれほど重要ではないと考えられてきました。
 ところが、これまでの常識を覆す可能性を示す研究成果が、イギリスのポーツマス大学の研究グループによって発表されました。なんと、イヌは顔の表情を使って飼い主とコミュニケーションをとっている可能性があるというのです。
 同大学心理学部のジュリアン・カミンスキー博士らの研究グループは、人間に注目されているときとそうでないときで、イヌの顔の表情がどのように変化するかを調べる実験を行いました。

 実験に参加した飼い犬は24頭で、ダルメシアン、ゴールデン・レトリーバー、ボクサー、ボーダー・コリーなどの犬種のほか、雑種も多く含まれています。年齢は1歳から11歳と幅広く、特殊な訓練を受けていない飼い犬ばかりが集められたことから、実験結果は普通の飼い犬に見られる顔の動きと考えられるでしょう。

 こうした24頭の飼い犬に対して、下の写真で示す4条件のポーズを飼い主役の実験助手にとってもらい、それぞれの条件でのイヌの表情の変化をビデオカメラで撮影して、詳しく調べました。

 

「エサを持って顔を向けている」(A)、「エサを持たずに顔を向けている」(B)、「エサを持って背中を向けている」(C)、「エサを持たずに背中を向けている」(D)の4条件で実験が行われた。それぞれの条件に対して、飼い犬がどのように表情を変えるかを調べることで、コミュニケーションに表情を用いているのかどうかが検討された。

 
 
 その結果、実験助手が飼い主に背中を向けているときに比べて、顔を向けているときの方が、イヌの顔の動きが活発になったというのです。しかも、エサを持っているかどうかはイヌの顔の動きに影響しなかったため、カミンスキー博士たちはイヌもコミュニケーションを図ろうとして顔の表情をつくっていて、その活発さはコミュニケーション相手が注目しているかどうかによって決まっているのではないかと考えました。
 私たちは何気なく見ているだけでも、飼い犬たちは、その表情で私たちに何かを伝えようとしているのかもしれません。

 

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記事執筆:斉藤勝司
http://www.kodomonokagaku.com/