ウミガメの助けを借りて海水温を予測する
(2020年1月17日)
熱帯海域の水温は猛暑や暖冬などの異常気象や水産資源の変動に関わるだけに、できるだけ正確に予測することが求められます。ただし、予測精度を高めるには観測データの充実が不可欠であり、国際的な観測網の整備が進められています。例えば、アルゴフロートと呼ばれる観測システムは、海に投入すると海面から水深2000mまでの水温を測定することができるため、すでに世界の海で約4000台が稼働しています(図1)。
しかし、アルゴフロートは水深が浅く、複雑な地形の陸地に囲まれた海域に用いることが難しく、観測データが不足していました。海洋研究開発機構と東京大学の研究グループは、従来の観測システムに代わる観測技術の開発に取り組んだのですが、その際、助けを求めたのはウミガメでした。産卵のために上陸してきたウミガメを捕獲し、その甲羅に水温や水深を測定できる装置(ロガー)を装着して放流。ウミガメが泳ぎ回ることで水温を測定できるのではないかと考えられました。
研究グループはアルゴフロートが使いにくく、観測データが不足していたパプアニューギニアとオーストラリアの間に位置するアラフラ海で水温データを得ようと、5頭のヒメウミガメにロガーを取り付けました(写真)。ヒメウミガメはエサとなる生物を捕食するため水深100m以上の潜水を繰り返す習性があるため、水温データの収集を任せるには打ってつけの存在です。また、ロガーに蓄えられたデータの回収に関しては、呼吸のために海面に浮上してきたところでロガーに搭載した発信機がデータを送信。人工衛星を介してデータを得られるようにしました。
放流した5頭のヒメウミガメは、ニューギニア島を反時計回りに迂回してアラフラ海に向かいました。毎日、水深数十mから100m以上の潜水を繰り返しながら水温を測定してくれたおかげで、研究グループは約3か月間にわたって水温データを得ることができました。
こうして得られたデータを取り入れ、アラフラ海の水温の予測シミュレーションを行い、人工衛星による海表面温度の実測値と比較したところ、ウミガメのデータがない予測に比べて、予測精度が劇的に改善され、ウミガメが測定した水温データの活用が有効であることが確認されました(図2)。さらにアラフラ海におけるヒメウミガメの回遊ルートも明らかになったわけで、この研究は一石二鳥の成果を得られたと言えるでしょう。
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記事執筆:斉藤勝司
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