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オオミズナギドリは台風の目に向かって飛んでいた

(2022年11月15日)

©きのしたちひろ

 観測機器の整備が進み、天候を予測するシミュレーション技術も発達して、現在、台風の勢力や進路をかなり正確に予測できるようになっています。その予測に基づいて報じられる天気予報を参考に、私たちは台風の襲来に備えることができるようになっていますが、台風の影響を受けるのは人間だけではありません。野生生物はどのように台風に対応しているのでしょうか。

 過去、海鳥のグンカンドリやカツオドリがインド洋や太平洋南部で発生る熱帯低気圧のサイクロンを避けるように飛んでいるという研究成果が数例報告されていますが、勢力や進路は台風ごとに異なり、数例の報告だけで台風に対する海鳥の対応を解明したとは言えないでしょう。そのため名古屋大学大学院環境学研究科の依田憲教授、同大学大学院工学研究科の竹内一郎教授らの研究グループは、新潟県の粟島で繁殖するオオミズナギドリで(下写真)に位置を測定できるGPSロガーを取り付け、その行動を追跡しました。

台風の目に向かって飛ぶことが明らかになったオオミズナギドリ (写真提供:後藤佑介特任助教・名古屋大学)

 2008年から2012年にかけて合計401羽の位置を測定し、台風にさらされた75羽のデータを詳しく解析した結果、オオミズナギドリは台風の目に向かって飛ぶことが明らかになりました(下図)。その中には8時間も台風の目を追いかける個体もいました。かといって、常に台風の目に向かって飛んでいるわけではなく、時速36㎞以上の強風に吹かれている時には台風の目に向かって飛ぶのに対して、時速36㎞未満の時には台風から遠ざかる傾向がありました。また、台風の目に向かうことで本州に接近してしまうような場合も台風に向かうことはないことなど、台風ごとに柔軟に対応していることが確認されました。

日本海に進んだ台風の進路を黒線で示している。カラフルな色で示したオオミズナギドリの飛行を見ると、台風の目に向かって飛んでいることが分かります。(画像出典:DOI: 10.1073/pnas.2212925119, URL: https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.2212925119, Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) “Pelagic seabirds reduce risk by flying into the eye of the storm”)

 

 そこで台風に対するオオミズナギドリの行動を模した模擬鳥をコンピュータ上で飛ばしてみたところ、多くの場合、陸上に吹き飛ばされずに海上に留まることができました。海上を吹く風を受けて、羽ばたかずに飛ぶオオミズナギドリにとって台風の最大のリスクは海の風を利用できなくなる陸上に飛ばされることです。だからこそ、オオミズナギドリは台風の目に向かって飛ぶことで、陸上に飛ばされることを避けていたのです。

 こうしてオオミズナギドリが台風に対して柔軟に対応していることが明らかになりましたが、他の海鳥が台風に対してどのように行動するかまでは分かっていません。最近、それぞれ1羽ずつですが、キバナアホウドリとワタリアホウドリもオオミズナギドリと同様の飛び方をすると報告されていますから、今後の研究で種類ごとの比較が進むことが期待されます。また地球温暖化によって台風の発生頻度や規模が変化しているとも指摘されています。オオミズナギドリについても研究が続けられることで、気候変動に対する野生生物の対応の一端を明らかにすることができるでしょう。

斉藤 勝司(さいとう かつじ)

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。