オジギソウの葉を開閉させる細胞のしくみを発見!!
(2023年3月15日)
オジギソウの葉を指で触れると、数秒のうちに羽状の葉が折りたたまれて、しばらくすると、まるで力を抜くかのように葉を広げて元の位置に戻ります。葉の動きが面白いので、触って遊んだことがある人も多いでしょう。このように葉が開閉する現象は、科学的にも興味深いものです。オジギソウの葉が開閉する運動については、進化論で有名なチャールズ・ダーウィンも関心を寄せた現象で、1800年代から注目されてきました。
オジギソウの葉の開閉を可能にしているのは、羽状の葉のつけ根にある葉枕(ようちん)という部分です。葉枕は特殊な細胞からなる小さな膨らみの部分で、まるで小型モーターや筋肉のような働きがあります。葉枕は円筒形をしていて、維管束とそれを取り巻く柔細胞からなります。オジギソウの葉枕による葉の開閉運動については、これまでに生化学的な反応からのしくみが明らかにされています。
たとえば、動物の体が葉に触れると、その刺激でカリウムやその他のイオンが葉枕のある部分から別の部分へと移動します。このとき、イオンの移動に追随するように水が移動します。すると、水分を失った細胞はしぼみ、そのとき維管束をはさんで反対側にある細胞は体積が増します。このように、複数の葉枕が歪むことよって、羽状の葉がさっと閉じて、折りたたまれます。ところが、こういった生化学的な反応が生じる葉枕で、実際に細胞がどのように伸縮するのかは未解明でした。
このほど、カリフォルニア大学アーバイン校(アメリカ)などの研究グループは、オジギソウの葉枕の細胞が、特殊な構造をしていることを発見しました。この成果は国際誌『Current Biology』に掲載されています。
この研究では、走査型電子顕微鏡や共焦点顕微鏡といった特殊な顕微鏡を利用して、葉枕の細胞が詳しく調べられました。その結果、葉枕の細胞をより効率的に膨張させる特徴のひとつは、セルロースミクロフィブリルという微細な繊維状の構造にありました。セルロースミクロフィブリルは植物の細胞壁の主要な成分であり、細胞壁を強くする働きがありますが、葉枕の細胞では、この繊維が細胞が伸びる方向に対して垂直に並んでいたのです。このことから、セルロースミクロフィブリルが、アコーディオンの蛇腹のような働きをして、細胞が四方八方に膨らむのを防いで、一定の方向に膨張するようになっていました。細胞が一定の方向に膨張することで、葉が折りたたまれていたわけです。
また、葉枕の細胞には、一次壁孔域といわれる細胞壁が薄くなった部分が多数ありました。この一次壁孔域が細胞が伸びる方向に対して、垂直面に多くみられることから、細胞内の水の流れに関わっているのではないかと研究グループでは考えています。
オジギソウの葉を開閉させる葉枕のしくみには多くのヒミツが隠されていますが、今回の研究で、その一端が解明されました。
【参考】
Sleboda D.A. et al. (2023) Multiscale structural anisotropy steers plant organ actuation. Current Biology. 33: 639-646. https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.12.013
保谷 彰彦 (ほや あきひこ)
文筆家、植物学者。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に新刊『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。
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