カラスとヒグマ、シカの意外な関係が明らかに
(2025年3月15日)
野鳥の中には、他の動物の行動によって生じた撹乱を利用して効率的に食べ物を得る者がいます。例えば、熱帯地域に生息するアリドリ科の野鳥はグンタイアリの群れが通過した際に飛び立った昆虫を効率的に採っています。こうした行動は「撹乱採食(かくらんさいしょく)」と呼ばれているのですが、高知大学と北海道立衛生研究所の研究グループにより、カラスがヒグマによって生じる撹乱を利用して効率的に食べ物を得ていることが明らかになりました。
北海道東部に位置する知床(しれとこ)国立公園では、ヒグマが地中のコエゾゼミの幼虫を狙って盛んに地面を掘り起こしています。研究グループが国立公園に設置した自動撮影カメラで撮影を行ったところ、カラスが写っていた59事例のうち14事例で同時にヒグマが撮影されており、ほとんどの映像でカラスは地面を掘り返すヒグマを追いかけていました。ヒグマの掘り返しに伴って地表にまき散らされた土壌生物を効率的に採食するほか、ヒグマの掘り返しによって柔らかくなった地面から餌となる生き物をついばむ様子も観察され、カラスはヒグマの掘り返しを利用した撹乱採食を行っていると考えられました(図1)。

(画像提供:高知大学 富田 幹次氏)
また、国立公園での自動撮影では、カラスがシカの体表を突く様子が撮影されましたが、シカがカラスを嫌がる様子は確認されませんでした(図2)。

(画像提供:高知大学 富田 幹次氏)
ある動物が別の動物の体表にとりついた寄生虫を食べることがあり、アフリカに生息するウシツツキがスイギュウやシマウマといった大型の草食動物の寄生虫を食べて除去することは有名です。研究グループはカラスがシカの寄生虫を除去している可能性を念頭に、自動撮影で撮影した動画、写真だけでなく、X(旧ツィッター)、YouTube、ブログに投稿された多くの動画、写真を集計しました。
カラスがシカの毛を抜く様子を収めた動画、写真も数多く投稿されていたため、寄生虫の除去する行動を収めたものに限った結果、26件(動画17件、写真9件)が集められました。そのすべてでシカはカラスを気にする素振りを見せず、カラスが突く場所に関しては耳が最多で、次いで頭、首が多く、上半身を中心に突いていました。寄生虫のダニの多くはシカの耳に寄生することが知られています。
シカの性別については、オスを突いている事例が16件と、メス8件の2倍も多く見つかりました。哺乳類ではメスよりもオスのほうが寄生虫に感染されやすいことが分かっており、突く場所が上半身に集中していること、オスのほうが多かったことを踏まえ、研究グループはカラスがシカを突くのは寄生虫を食べるためだと考えました。
ダニは感染症の原因となる病原体を媒介するものの、今回の研究ではカラスの行動でシカに感染するダニの数を抑えられるかまでは明らかになっていません。そのため今後の研究でカラスの行動がシカの健康維持にどれほど貢献しているかが解明されることが期待されます。
【参考】
■高知大学プレスリリース
カラスと大型哺乳類の意外な相互作用を発見~撹乱採食と寄生虫除去について~
■『Ecology and Evolution』の論文
「Cleaning Interactions Between Crows and Sika Deer: Implications for Tick-Borne Disease Management.」

斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。