コムギの草丈を低くする!! 新「緑の革命」遺伝子を発見
(2023年2月01日)
1960年代に起こった「緑の革命」は、農業革命の1つとされ、穀物の生産量を劇的に増加させました。とくに草丈を低くする「緑の革命」遺伝子により、コムギの収量は大きく増えました。草丈の低いコムギには、茎が短くなった分だけ、種子生産により多くのエネルギーを投資する傾向があり、さらに風雨などで倒れにくく、種子を収穫しやすいといった特徴があります。これらの特徴がコムギの生産量の増加につながっています。
ところが、コムギの草丈を低くする「緑の革命」遺伝子には大きな欠点もありました。それは、水が不足しがちな乾燥した畑で、水分を確保するために種子を地中深くに植え付けると、苗が土壌の表面まで到達しにくくなり、成長できなくなってしまうということです。
このほど、英国ジョン・イネス・センターを中心とする研究グループは、コムギの草丈を低くする新たな「緑の革命」遺伝子を発見しました。この遺伝子の作用メカニズムは従来とは異なり、苗の成長には影響を与えないことがわかりました。
この研究では、すでに解読されているコムギゲノムを利用して、網羅的に草丈に関わる遺伝子が探索されました。その結果、コムギの草丈を抑える新しい遺伝子Rht13が発見されました。
これまでに広く使われている「緑の革命」遺伝子(Rht-B1bおよびRht-D1b)では、ジベレリンという植物ホルモンの働きが妨げられて、草丈が低くなります。そのため、コムギの全体的な成長にも影響を与えることになり、結果として、苗の成長も悪くなるので、種子を地中深くに埋めるとうまく育たないことがあるわけです。
それに対して、今回発見されたRht13遺伝子は、それとは異なるメカニズムで草丈を低くする遺伝子でした。この遺伝子は、コムギの茎の上部で作用して草丈を低くしますが、苗の時期には、野生型のコムギと同じように成長をします。さらに、草丈が低くなる仕組みは、苗が完全に地上に現れてから、その効果を発揮しはじめるのです。このため、乾燥した土壌で地中深くに種子を埋めても、草丈の低いコムギとして成長するというわけです。
また、この遺伝子の効果をさらに詳しく調べた結果、Rht13遺伝子は、病害抵抗性遺伝子の働きを高めたり、細胞壁の性質を変化させたりといったことに関連していることも確認されました。
この遺伝子により、乾燥した畑でも草丈の低いコムギを栽培できるようになる可能性があります。また、特定の病原菌に対する抵抗力を高めることもできるかもしれません。今回の成果は、干ばつにも強いコムギの開発につながり、それは世界のコムギ生産量のさらなる増加をもたらすと期待されます。
【参考】
Borrill P. et al. (2022) An autoactive NB-LRR gene causes Rht13 dwarfism in wheat. Proceedings of the National Academy of Sciences. 119 (48): e2209875119
https://doi.org/10.1073/pnas.2209875119
保谷 彰彦 (ほや あきひこ)
文筆家、植物学者。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に近日刊行『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。
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