コーヒーでコンピューターが速くなる!?
(2023年1月15日)
コーヒーに含まれているカフェ酸という物質を使って、有機半導体の性能を大きく向上させることが可能であることがわかりました。
産業技術総合研究所ナノ材料研究部門接着界面グループの赤池幸紀主任研究員、物質計測標準研究部門ナノ材料構造分析研究グループの細貝拓也研究員、筑波大学数理物質系山田洋一准教授は、カフェ酸の薄膜を有機半導体デバイスの電極表面に形成すると、デバイスに流れる電流の大さが増大することを見出しました。
有機半導体とは、通常のシリコンなどを使った無機半導体とは違って、炭素を含む有機物で作られた半導体で、有機ELや有機太陽電池として広く使われています。薄くて軽く、フレキシブルに折り曲げることができ、製造コストが安いという特長があります。
しかし現行の有機半導体では、電流を流れやすくするため、電極に地球環境に負荷を与える物質が含まれています。また電極材料の一つであるレアメタルは、埋蔵量に限りがあります。将来、有機半導体が使用を終えて大量に廃棄されるようになると、地球環境に影響を与える恐れがあります。そのため有機半導体には、環境負荷が少なく、かつ電流がよく流れる材料が求められていました。
研究グループは、電極表面にカフェ酸の薄膜を形成する新たな技術を開発しました。有機半導体デバイスは、電極基板上に有機分子の層を積層して作成されますが、デバイスに流れる電流を大きくするには、電極から有機半導体へ電気が流れやすくすることが重要です。この過程を促進するのが、永久双極子モーメントを持った分子です。永久双極子とは、電界をかけなくても一方にプラスの電気、もう一方にマイナスの電気を持った分子で、電荷(電気の量)と両極の距離を掛け合わせたものが双極子モーメントです。分子が持つ電気的な力の大きさを表すものです。
研究グループは大きな双極子モーメントを持つ物質として、カフェ酸に注目しました。カフェ酸はコーヒーに含まれている物質で、コーヒー酸とかカフェイン酸とも呼ばれます。
研究グループは、有機半導体デバイスの電極と有機半導体の接合面にカフェ酸の薄膜を形成したところ、これまでの約100倍もの電流が流れることを発見しました。薄膜を形成したカフェ酸の分子の配置を詳しく調べたところ、分子が長軸方向に傾けて配置されており、これが永久双極子モーメントを持っているため、電流が流れやすくなっていることがわかりました。
この方法は、電極が金、銀、銅、鉄の他、透明電極のインジウムスズ酸化物(ITO)でも有効であることもわかりました。ITOはディスプレイデバイスに広く用いられている材料です。今回新たに発見された知見によって、身近な材料を活用して、環境負荷の少ないデバイスを構築できることが分かり、バイオマス由来の持続可能性のある有機半導体の実現に寄与できると考えられます。
【参考】
■産業技術総合研究所プレスリリース
サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。