サイクロイドのいろいろな特徴(2)
(2016年11月01日)
前回は、「最急降下線」とも呼ばれるサイクロイド曲線のご紹介をしました。今回は、サイクロイド曲線の物理的なおもしろい性質のご紹介です。
2.サイクロイド振り子
振り子というと普通は右図のような単振り子をイメージします。
そして、ガリレイによって発見された振り子の等時性(同じ長さの場合、大きく揺れているときも、小さく揺れているときも、往復にかかる時間は同じ)は有名です。ただしこれは、右図のθが16度程度までなら有効数字2桁の範囲で成り立つ近似的なものです(有効数字3桁の範囲とすると、5度程度となります)。つまり、振り子の周期は振れ幅に依存してしまいます。
しかし、サイクロイド振り子と呼ばれる振り子は、振幅によらず周期が一定です。このサイクロイド振り子を研究したホイヘンスにちなんで、ホイヘンス振り子と呼ばれることもあるようです。
右図のように、色のついた部分はサイクロイドの形の断面の柱があり、その間に振り子がつり下げられています。ひもの長さは、サイクロイドを作り出す円の半径aの4倍、つまり4aです。
サイクロイドの数学的な性質のところで述べましたが、サイクロイドの曲線の長さは8aですから、最も振り子が振れたとき、振り子のおもりは柱のサイクロイド部分の中心(最下点)に達します。ただし、なにもそこまで大きく振らせる必要はありませんが。このようにして作られた振り子のおもりの軌跡(右図の破線部分)はやはりサイクロイドとなるので、この振り子はサイクロイド振り子です。次のリンクのページには、この振り子の振れ幅が小さいときのようすをアニメ化した図が出ています。
http://blogs.yahoo.co.jp/crazy_tombo/45890605.html
このように複雑に考えずに、最初から、サイクロイドの形をした溝を考え、その上を物体が滑りながら左右に運動する、と考えてもかまいません。
このサイクロイド振り子は、振り子の振幅が変わっても、周期は変わらないのです。
この証明も、やはり上記 新潟工科大学の竹野氏が詳しく解説をしておられます。
3.サイクロイド軌道での物体の落下
ところでここまで読まれて、ふと疑問に思われた方がおられるのではないでしょうか。
サイクロイド軌道の上を振動する物体の運動の振幅が変わっても、周期は変わらない。
→ 振幅が大きいときと振幅が小さいときとで、周期は変わらない。
→ 「振幅が大きいときに最下点までかかる時間」と「振幅が小さいときに最下点までかかる時間」
が同じ
→ サイクロイド軌道上での物体の運動は、物体がどこにいても、最下点までかかる時間は同じ
ということになるのではないか・・・。そんなことって、あるのでしょうか。
そうです。あるのです。
サイクロイド軌道上で物体が落下する(滑り落ちる)とき、物体が軌道上のどこにあっても、最下点までかかる時間は変わらないのです。
つまり、上の2つのような状況のとき、物体が最下点まで滑り落ちてくる時間は同じなのです。このことは、サイクロイド軌道上の異なる高さから二つの小球を同時に静かに離すと、必ず最下点でぶつかる、ということでもあります。
おもしろいですね。
余談ですが、このサイクロイドのおもしろい物理的な性質は、物理チャレンジ2014の理論問題にもなっていす。
http://www.jpho.jp/2014/2ndChall2014/2014_Theory_QuestionBook_Final.pdf
(物理チャレンジとは、国際物理オリンピック日本代表選手を選考するための大会にもなっている、物理の実力を競い合う大会です)
この物理チャレンジ2014理論問題の問10で、入り口と出口の直線距離500km(おおよそ、東京-大阪程度)のサイクロイド軌道のトンネルをつくり、入り口で物体を静かに放すと出口までの所要時間はどれくらいかという問題があります。
解答を見ると、約10分弱で出口に到着するとあります。
http://www.jpho.jp/2014/2ndChall2014/2014_Theory_Solution_Final.pdf
リニア新幹線よりもはるかに速いということのようです。(東京-大阪間を最速67分)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E6%96%B0%E5%B9%B9%E7%B7%9A
同様の計算として、東京-ロンドン間のトンネルの場合がありました。地表で9,564km、直線で結ぶと約8,690kmだそうですが、所要時間は約39分だそうです。
http://hooktail.sub.jp/mathInPhys/brachisto/
すごいですね。
(おわり)
村石 幸正(むらいし ゆきまさ)
教育に関する遺伝と環境からの影響を調べるため、募集枠を設けて双生児を入学させている東京大学教育学部附属中等教育学校で、長年にわたり、理科・物理の教員を務め、放射線教育に関わると共に、双生児研究に携わってきた。
現在、中央大学理工学部に教職課程担当の特任教授として勤務。