[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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マイクロプラスチック中の添加剤が食物連鎖を通じて魚に移行することを確認

(2023年1月01日)

 軽くて丈夫なプラスチックは様々な製品に応用され、私たちの生活になくてはならないものになっています。ただし、プラスチック製品が廃棄後に適切に処理されればいいのですが、一部が自然界に漏出。川を通じて海にまで流れ着き、海を漂ううちに劣化し、5mm以下のマイクロプラスチックとなって問題視されるようになっています。

 近い将来、その数は世界中の海に生息する魚よりも多くなるとの試算もあり、海洋生物への影響が心配されているのですが、東京農工大学と北海道大学の共同研究より、マイクロプラスチックに含まれる添加剤が食物連鎖を通じて魚の組織に移行することが確かめられました。

 そもそもプラスチックには、用途に合わせた性能を得るために様々な化学物質が添加されています。こうした添加剤の中には生物に悪影響を及ぼすものもあり、マイクロプラスチックを飲み込むことで、生物の組織への移行が心配されています。また、自然界では小さな生物がより大きな生物に捕食される食物連鎖を通じて、より大きな捕食者ほど化学物質の汚染濃度が高まる「生物濃縮」が起こることが知られています。

 研究グループは北海道東部の厚岸湖で採取した甲殻類の一種イサザアミ類と、これを捕食するシモフリカジカを用いて、エサ生物を介して捕食者にプラスチックに含まれる添加剤が移行するかどうかを調べる水槽実験を行いました。

槽実験で利用されてシモフリカジカ(左)とイサザアミ類(右)。 (撮影: 長谷川 貴章氏)

 

 添加剤として2種類の難燃剤(BDE209、DBDPE)、3種類の紫外線吸収剤(UV-234、UV-327、BP-12)を含むポリエチレンを粉砕して、粒のサイズを平均30μmにしたマイクロプラスチックを用いて、(1)野外で採取した直後のシモフリカジカ(野生区)、(2)マイクロプラスチックを含む水中で、マイクロプラスチックを摂取していないイサザアミ類を与えて飼育したシモフリカジカ(水中区)、(3)マイクロプラスチックを含まない水中で、マイクロプラスチックを摂取したイサザアミ類を与えて飼育したシモフリカジカ(アミ区)それぞれの筋肉組織中の添加剤濃度を比較しました(図1)

図1 水槽実験では、野外で採取した直後のシモフリカジカ(野生区)、マイクロプラスチックを含む水中で、マイクロプラスチックを摂取していないイサザアミ類を与えて飼育したシモフリカジカ(水中区)、マイクロプラスチックを含まない水中で、マイクロプラスチックを摂取したイサザアミ類を与えて飼育したシモフリカジカ(アミ区)それぞれの筋肉組織中の添加剤濃度が比較されました。 (撮影・作画: 長谷川 貴章氏)

 

 その結果、紫外線吸収剤は水中区、アミ区で筋肉組織中の濃度に大きな差が生じず、難燃剤に関しては野生区、水中区に比べて、アミ区のほうが濃度が高くなり、水中に溶け出した添加剤を直接摂り込んだり、飲み込んだマイクロプラスチック由来の添加剤を摂り込んだりするだけでなく、エサのイサザアミ類経由で添加剤に汚染されることが確かめられました(図2)

図2 筋肉組織中の添加剤の濃度を比較した結果、紫外線吸収剤(UV-327、BP-12)では水中区、アミ区で大きな差は生じず、難燃剤(BDE209、DBDPE)では野生区、水中区よりもアミ区の濃度が高くなり、エサのイサザアミ類を介してシモフリカジカの筋肉組織に添加剤が移行することが確かめられました。 (作画: 長谷川 貴章氏)

 

 同様の現象が自然界でも起こっているとすると、多くの捕食生物がエサ生物を介して添加剤を摂り込んでいるはずで、生物濃縮により、捕食生物が高濃度に汚染されていることも心配されます。より厳格にプラスチックの自然界への漏出を防ぐとともに、プラスチックの消費を可能な限り低減することも求められるでしょう。

 

【参考文献】

プレスリリース

マイクロプラスチックに含まれる添加剤が食物連鎖を通して魚類の組織に移行することを世界で初めて実証~餌生物の摂食によるプラスチック添加剤の垂直輸送の重要性を解明~

斉藤 勝司(さいとう かつじ)

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。