マルハナバチは猛暑で嗅覚を失う!?
(2024年10月09日)
ここ数十年の気候変動により、夏の暑さが厳しさを増しています。息が詰まるような暑さが何日も続くことが多くなりました。最高気温が35度を上回る日が増え、40度を超える日もあるほどです。記録的な暑さは、日本に限ったことではなく、地球規模で起きています。
暑さは私たちの健康に悪い影響を与えることがあり、ときには命に関わることもあります。また、作物の成長が悪くなり、食料が不足することもあります。さらに、多くの生き物たちにとっても脅威(きょうい)となっています。
このほど、ユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク校(ドイツ)を中心とする研究グループは、暑さにより、マルハナバチは花の香りを嗅(か)ぎ分けられなくなることを発見しました。
私たちの食卓に上る野菜や果物、ナッツ、豆類などの作物の多くは、ミツバチやマルハナバチなどのハナバチ類が花粉を運ぶことで実ります。ハナバチ類が花粉を運ぶ作物は、私たちの食料の約3分の1を占めるといわれるほどです。しかし、ここ数年、世界各地でハナバチ類の個体数が減少しており、その主な理由は生息地の減少と気候変動の2つだと多くの研究者は考えています。
今回の研究では、実験室で、190匹のマルハナバチを使い、気温40度の暑さに対する反応が調べられました。その結果、暑さにさらされたマルハナバチは、花の香り成分に対する触角の反応が著しく低下し、最大で約80%低下することがわかったのです。
近年では気温40度は実際に起きている温度です。実験によると、ほとんどの場合、暑さにさらされたマルハナバチの触角は、24時間涼しい場所で休ませた後でも、花の香りに対する反応が回復しませんでした。
マルハナバチが触角で花の香りを嗅ぎ分けられなくなると、何が起こるのでしょうか?マルハナバチは視覚の情報から花の群生地を見つけだします。群生地に近づくと触角で花の香りを嗅ぎ分けて、蜜や花粉が効率よく採れそうな花を探しだします。これは、レストランの前を通り過ぎたとき、匂いを頼りに、良いレストランかそうでないのかがわかるようなものです。暑さで、花の香りを嗅ぎ分けられなくなれば、マルハナバチは餌である蜜や花粉を効率よく得られなくなります。そうなれば、生き続けることが難しくなるでしょう。さらに、マルハナバチによる作物の送受粉がうまく行われなくなれば、私たちの食料も減ってしまうと予想されます。
気候変動による気温の上昇が、ヒトだけでなく、野生生物にも悪い影響をもたらすことについて、もっと関心をもつ必要があるでしょう。
【参考】
■Nooten S.S. et al. (2024) The heat is on: reduced detection of floral scents after heatwaves in bumblebees. Proceedings of The Royal Society B. https://doi.org/10.1098/rspb.2024.0352
保谷 彰彦 (ほや あきひこ)
文筆家、植物学者。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に新刊『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。
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