マルハナバチは花の湿度を感知していた!!
(2021年7月15日)
セイヨウオオマルハナバチ by Martin Cooper Ipswich is licensed under CC BY 2.0
ブリストル大学とエクセター大学(共にイギリス)を中心とした研究グループは、マルハナバチには、花が作り出す湿度の違いを利用して、花蜜のある花とない花とを見分ける能力が備わっていることを明らかしました。この研究成果は国際誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されています。
近年、花で生じる湿度は、その花が咲いている環境、つまりバックグラウンドの湿度とは異なるパターンを示すことが明らかにされています。広く21科を網羅する42種の植物について、花の開いている部分とバックグラウンドとなる生育環境での湿度を比べた研究では、30種(71%)が、花が作り出す湿度のほうが、バックグラウンドの湿度よりも高くなっていたのです。その差は最大で3.71%に達しました。そして、花の湿度は種によって異なり、主にガ類やハエ類、ハチ類がポリネーター(送粉者)となる花では、花が作り出す湿度が高くなる傾向が観察されています。実際に、花の湿度を感じとる能力は、スズメガの仲間で確められています。しかし、他のポリネーターでは研究されていませんでした。
研究グループは、花が作り出す湿度は、ポリネーターを花へと誘うシグナルになっているという仮説を立てました。そこで、自然環境や農業分野で重要なポリネーターとなっているセイヨウオオマルハナバチを使って、花の湿度を感知して、餌となる花蜜を探す能力があるのか、調べることにしました。まず、自然の花と同じような湿度を示す人工花と、人工花の湿度のパターンを正確に測定できるロボットセンサーを製作しました。そして、それらの装置を使い、マルハナバチの行動を詳しく研究したのです。
その結果、マルハナバチは、湿度が高い花を好む傾向があることがわかりました。さらに、学習実験により、マルハナバチは花が作り出す湿度の違いを利用して、餌となる花蜜のある花とない花を見わけられることもわかりました。このように、マルハナバチには花の色や模様、香りなどを認識する能力だけでなく、花が作り出す湿度パターンを区別して学習する能力が備わっていたのです。
研究グループでは、花が作り出す湿度パターンは、花が示す色や模様、香りなどのシグナルの1つである可能性が高く、マルハナバチが花を見わけて、より効率的に花粉や花蜜を探す際の手がかりとして役立っているのだろうと考えています。花の湿度は、花弁や花蜜からの水分の蒸発によって生じているため、いわば花の鮮度を示す、ごまかしようのない「正直なシグナル」として、ポリネーターにとって重要な情報になっている可能性があるのです。
また、花の湿度パターンは、花の周囲の環境の湿度に依存している可能性があります。気候変動がこの環境の湿度に影響を与え、その結果、花の湿度パターンが変化することがあれば、マルハナバチにとって花を見わける手がかりが1つ失われることになるのかもしれません。
【参考】
保谷彰彦
文筆家、サイエンスライター。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門はタンポポの進化や生態。著書に『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」が掲載中。