[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

モノを見えなくする「不可視化」技術に新展開

(2019年6月01日)

(図1)左が見えるとき、右が見えないときの光の波面のようす。右では、円柱通過後も波面が乱れていない。

 モノを見えなくする不可視化技術の研究が進められています。見えなくする、つまり透明化するには、物体を通過する前の光と通過後の光に変化がないようにすればいいわけです。これを実現するために、クロ―キングという技術が提案されてきました。

(図2)左が見えるとき、右が見えない時の円柱内部の光磁場の分布。右では、中心部分にプラス、その上下に二つ対称にマイナスの光磁場が分布している。

 クロ―キングとは、物体を覆うクローク(外套)からとった言葉で、物体の表面をメタマテリアルという屈折率の高い物質で外套のように覆い、見えなくする技術です。メタマテリアルは、光の波長よりも小さいナノスケールの金属などの構造体を組み合わせたもので、光の屈折率を制御します。光は電波と同じ電磁波なので電場と磁場を持っていますが、これをうまく制御すると、メタマテリアルの屈折率を変えて光を物体の周囲を包み込むように走らせることで、透明化が実現できるのです。

 このたび、東京工業大学工学院電気電子系の小林佑輔大学院生と梶川浩太郎教授の研究グループは、屈折率や構造などのパラメーターを網羅的に調べ、不可視化する対象物と同じ屈折率のクロ―キング媒質でも不可視が実現できることを見出し、単一物質で不可視化が可能なことを、シミュレーションによって実証しました。
 単一物質であれば、比較的容易に不可視化が実現でき、応用しやすくなります。
 研究チームは、円柱構造の物体に偏光しているある波長の光を当てたときの、光の散乱具合を計算によって解析し、散乱しにくく屈折率の大きな材料、および光の波長と円柱のサイズの関係をつきとめました。そして、光を当てたときの光磁場のようすをFDTD法(時間領域差分法)で解析し、光が物体を通過しても、光の波が通過前と同じ状態であることを確認しました(図1)。
 このとき、円柱構造内の光磁場の分布が不可視の場合は、中心部分にプラスの光磁場ができ、その上下にマイナスの光磁場が対称に存在していることもわかりました(図2)。そのため、光磁場がうまくキャンセルされて散乱光が出なくなるのだそうです。
 この研究成果によって、見えない光学素子や外部の光や電波によるノイズの影響を受けないデバイスを実現できる可能性があるということです。

 

 

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記事執筆:白鳥敬
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