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世界初! 潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)の患者に対する腸上皮の“ミニ臓器”の移植に成功

(2022年8月01日)

 大腸の粘膜に慢性の潰瘍やびらん(ただれ)が生じる潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)は、1970年代から一貫して増加しており、現在、国内に22万人以上の患者がいると推計されています。それでも、近年では炎症を抑える治療法が発展して、長期に渡って症状を改善できるようになっています。
 ただし、潰瘍性大腸炎の治療では症状を抑えるだけでなく、炎症によって傷ついた大腸粘膜の修復再生も重要にもかかわらず、様々な治療を駆使しても粘膜の修復が難しい患者がいます。そこで東京医科歯科大学の研究グループは、患者の大腸から組織を採取し、これを培養した上で潰瘍部分に移植する臨床研究に取り組みました。
 潰瘍性大腸炎の患者の大腸にも健康な組織は存在します。この組織には腸の組織になることができる腸上皮幹細胞が含まれており、これを培養することにより、研究グループは腸の“ミニ臓器”と言える「自家腸上皮オルガノイド」を作成しました。
 自家腸上皮オルガノイドは、前述の幹細胞のほか、腸の細胞になった分化細胞などの様々な細胞を含む球状の組織で、適切な環境で培養することによって大量に、かつ長期に渡って増やすことができるといいます(図1)。また、患者自身の組織から培養しているため、患者の幹部に移植しても免疫拒絶が起こることはありません。

図1 ©東京医科歯科大学

 

 そして研究グループは自家腸上皮オルガノイドを患者の大腸の潰瘍部分に移植しました。体外で培養されたオルガノイド(ミニ臓器)を患者に移植する世界初の試みながら、経過は順調で、現在は外来で大腸粘膜の再生具合が調べられています。今後、移植したオルガノイドが腸の上皮に変わって正常に機能するようになれば、潰瘍性大腸炎の完治が期待できるでしょう。研究グループは2例目の実施を計画するに留まらず、小腸や大腸の粘膜に原因不明の慢性炎症が起きるクローン病などの消化器疾患への応用も目指しています(図2)。

 

図2  ©東京医科歯科大学

 

 しかし、腸上皮オルガノイドを移植する臨床研究は始まったばかりで、多くの患者に実施できる段階にありません。前述した通り、潰瘍性大腸炎の患者は22万人以上いると推計されており、東京医科歯科大学の研究されている治療法は多くの患者にとって大きな福音になりますが、広く実施されるようになるにはもう少し時間がかかるでしょう。

 

 

【参考文献】

・東京医科歯科大学プレスリリース
・東京医科歯科大学 消化器内科 潰瘍性大腸炎とは

斉藤 勝司(さいとう かつじ)

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。