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中性子とX線で10万分の1秒の世界を同時に見る

(2021年10月15日)

 大阪大学レーザー科学研究所の余語 覚文(よご あきふみ)准教授らの研究チームは、レーザー光を使って中性子とX線を同時に発生させて材料に照射することで、対象物の挙動を10万分の1秒という極めて短い時間で切り取り、画像として捉えることに成功しました。

 研究チームは以前から短いパルスの高出力が得られるレーザー装置LFEX(エルフェックス)の研究を続けています。今回はその成果を活かすことで実現しました。

 

 X線は古くから回折や干渉を利用して材料の解析に用いられていますが、中性子にも同様の作用があります。ただし中性子を撮影光源とするには、中性子の数をあまり減らさずにエネルギーを下げる必要があります。今回研究チームはそれを実現する装置を開発しました。中性子はX線と違って水素などの軽い元素を捉えることができるので、X線と中性子で同時に撮影することで、重い元素と軽い元素が混在した対象物の内部のようすを詳しく捉えることができるのです。

 

 レーザー光を10万分の1秒という極めて短い時間、数10㎛(マイクロメートル、1㎛は1,000分の1mm)という非常に狭い範囲に集中させて照射すると、あらゆる物質が電子と陽イオンに分離したプラズマ状態になります。この高密度のプラズマから高エネルギーの陽子やX線が生成され、これをベリリウムに当てることで極めて短い時間間隔で中性子が生成されます。

 この時、中性子は撮影対象の物質と反応しやすいようにエネルギーを下げる必要があり、また中性子とX線を同時に発生させるための手法が必要でした。研究チームはこれまでの研究の蓄積を活かして、X線と中性子を同時に発生させるメカニズム、及び中性子の数を減らさないままエネルギーを下げる手法を編み出しました。

 

 この装置で、カドミウムを含むニッカド充電池、カドミウムを含まないニッケル水素充電池、軽い物質である炭化ホウ素の3種類を撮影してみました。その結果、X線で撮影したものには軽い物質である炭化ホウ素は写っていませんが、中性子で撮影したものにはしっかり写っていました。また画像の濃さからカドミウムを含む電池と含まない電池を識別できるとともに、カドミウムの厚さまで測定することができました。

 この撮影方法によって、重い材料と軽い材料が混在している物質内部の極短時間における挙動を同時に捉えることができるようになります。

 

 この技術は、金属管内の水や油の流れ、ロケットエンジン内部の液体水素燃料の挙動などを調べるときに力を発揮します。また装置の小型化によって対象分野を大きく広げることになり、プラントや建築物等の老朽化対策のための非破壊検査にも役立っていくと考えられています。

 

レーザーで同時生成したX線と中性子で10万分の1秒で切り取った画像。 左半分は実際の被写体の配置。上にニッケル水素充電池、下にニッケル水素充電池、右に炭化ホウ素を配置。 右半分は実際に撮影した画像。X線では炭化ホウ素は写っていないが、中性子では写っている。暗くなってるところが写っている部分。(阪大レーザー研余語准教授提供)

 

【参考】

■大阪大学プレスリリース

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210916_1

サイエンスライター・白鳥 敬
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。