[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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人体への影響が心配されるナノプラスチックの土壌中濃度を測定する技術を開発

(2024年7月16日)

 軽くて丈夫な上、安価に製造できるプラスチックは、今や私たちの生活になくてはならないものとなっており、身の回りには様々なプラスチック製品があふれています。ただし、廃棄後、すべてのプラスチックが適切に処理されればいいのですが、一部が自然界に漏出(ろうしゅつ)して大きな社会問題になっています。

 自然界に漏出したプラスチックは、太陽光に含まれる紫外線の影響で劣化し、微細なマイクロプラスチックになっていきます。河川を通じて海にまで流れ着いたものは、海洋プラスチックと呼ばれ、海生生物への影響が心配されていますが、量については陸上に存在するもののほうが多く、海に漂うものの4~23倍にもなると推定されています。

 またマイクロプラスチックが粉砕されて、1マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)以下のナノプラスチックが生じることがあります。ナノプラスチックは赤血球を破壊し、細胞中のミトコンドリアDNAに損傷を与えることが明らかになっており、人体への影響はマイクロプラスチックよりもナノプラスチックのほうが深刻である可能性は否定できません。

 人間へのリスクを評価するため、ナノプラスチックの量の測定が求められるものの、従来技術は土壌中から回収することが必須であったため、測定できるの1マイクロメートル以上のものに限られました(図1)。そこで産業技術総合研究所と早稲田大学の研究グループは土壌中のナノプラスチックの量を測定する技術の開発に取り組みました。

図1. 自然界に漏出したプラスチックは粉砕されていくが、1マイクロメートル以下のナノプラスチックは、これまで測定することができず、土壌中の量を明らかにすることができませんでした。
©産業技術総合研究所

 

研究グループは、土壌とナノプラスチックでは光を当てた際の吸収(吸光度)が異なると考え、有機物の含有量などが異なる6種類の土壌サンプル、粒径203ナノメートル(1ナノメートルは10億分のメートル)ポリスチレンの微粒子を用意し、波長200~500ナノメートルの光を照射して、それぞれの吸光度を調べました。その結果、各波長に対する吸光度(吸光度スペクトル)が明らかになりました(図2)

図2 研究用に用意された6つの土壌サンプルとナノプラスチックでは、波長ごとに吸光度が異なることを解明。この知見を活用して、土壌中から分離することなく、ナノプラスチックの濃度を測定できるようになりました。 ©産業技術総合研究所
(DOI: https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2024.116366 ※原論文の図を引用・改変したものを使用。)

 この吸光度スペクトルを利用し、2つの波長の吸光度を測定することにより、ナノプラスチックの濃度を測定できるようになりました(図3)

 


図3. 土壌に分散材が入った養液を添加して、土粒子、ナノプラスチックが混在する懸濁液を得ます。この懸濁液の吸光度を測定することで、ナノプラスチックの濃度を明らかにすることができます。
©産業技術総合研究所(DOI: https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2024.116366 ※原論文の図を引用・改変したものを使用。)

 

 こうして開発された技術を活用して、研究グループは今後、土壌中に含まれるナノプラスチックの濃度を測定し、ナノプラスチックがどのように分布し、どのように移動していくかを明らかにしてく予定です。

 

【参考】

■産業技術総合研究所のプレスリリース

土壌中のナノプラスチック濃度の測定技術を開発

 

■論文

・A novel and simple method for measuring nano/microplastic concentrations in soil using UV-Vis spectroscopy with optimal wavelength selection

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0147651324004421

 

斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。