[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

人間の活動の影響で脊椎動物は60%も減少していた!

(2018年12月01日)

世界各地で観測されたデータをもとに、生物個体群の減少を指数で示した表。白線は指標値、色のついた部分は信頼限界を示している。(©️2018WWF)

 これまでにも人間の活動によって多くの野生生物が絶滅の危機に追いやられているといわれてきましたが、また1つ、野生生物が危機的状況に置かれていることを示す研究成果が発表されました。
 世界自然保護基金(WWF)が公表した『生きている地球レポート2018』と題した報告書によると、調査対象となった約4000種の脊椎動物、合計1万6000以上の個体群の大きさが1970年から2014年にかけて、平均して60%も小さくなってしまったというのです(図)。その主な原因として、『生きている地球レポート2018』では、私たちが地球を過剰に利用していることが挙げられています。
 私たちは、きれいな空気、水、食料、そして、エネルギーなどの恩恵を地球から得ており、こうした恩恵を金額に換算すると、約1京4000兆円に達するといわれています。ただし、地球が供給できる自然資源には限界があります。すでに私たちが利用している自然資源の量は地球の供給限界を上回っており、2014年時点で人間は実に地球1.7個分の自然資源を消費しているというのです。これだけの資源を消費していれば、野生生物の生息地の消失、劣化は免れず、その影響が私たちの生活に跳ね返ってくるかもしれません。
 例えば、日々、私たちが食べる農産物の中には、花粉を媒介してくれるハチのような受粉生物の働きによって生産できるものが少なくありません。もしハチが生息できる自然環境が失われれば、当然、彼らによる受粉は望めなくなります。人間が手作業で受粉させることには限界があり、さらに野生生物の生息地が損なわれて、ハチがいなくなるようなことにでもなれば、農業生産は立ち行かなくなってしまうかもしれません。
 野生生物が減少していることを示す報告書を目の当たりにして、今こそ自分たちの生活を見直すべきなのでしょう。

花を巡って植物の受粉を助けるアカオマルハナバチ (©️Ola Jennersten – WWF-Sweden)
絶滅が心配される野生生物の代表格といえるユキヒョウ (©️National Geographic Stock – Steve Winter – WWF)

 

 

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記事執筆:斉藤勝司
 http://www.kodomonokagaku.com/