[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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充電を気にせずに快適なEVモビリティーを実現

(2024年4月01日)

 世界的に電気自動車(EV)が急速に普及しつつありますが、日本では今一つ普及が遅れています。充電スタンドの普及が進まないことが原因の1つですが、もっと本質的な問題は、1回の充電で走行できる距離が短いことです。ユーザーは利便性からいってEVの走行距離にガソリン車と同等の性能を求めているといえます。

走行中ワイヤレス給電システムの最適配置と経済性 ©東京大学生産技術研究所 本間(裕)研究室

 そこで、走行距離を伸ばすためのさまざまな工夫が行われていますが、その1つが走行中に路面に埋め込んだコイルから充電する「走行中ワイヤレス給電システム(WPTS)」です。これは、電磁場を利用して電力をワイヤレス(無接触)でEVのバッテリーに送る充電方式です。この方式であれば走行しながら充電できるため、充電のために充電スタンドに停車する必要がなく、バッテリー残量を気にせずに走ることができます。

 しかし高速道路全線に渡ってWPTSのコイルを設置するには大きなコストがかかるという課題がありました。そこで、東京大学生産技術研究所の本間 裕大 准教授・大口 敬 教授・畑 勝裕 助教・長谷川 大輔 特任助教(研究当時)らの研究チームは、WPTSを全路線に敷設する必要があるのかどうかを、数理的手法を用いて検討しました。

 研究チームはEVの移動可能距離と敷設コストを勘案(かんあん)してWPTSの最適配置を導き出しました。標高データ・地理データから実際の走行距離を算出し、道路の勾配も考慮に入れて、総延長約500kmの新東名・名神高速道路及び総延長約1,350kmの東北自動車道について調べた結果、EVのバッテリー容量を40kWhとして、どちらの場合も片道あたり50kmほど(双方向で100km)設置するだけで、95パーセント以上のEVの移動をカバーできることがわかりました。これはEVの普及率が30パーセント程度を超えれば採算が取れる値だといいます。

 また、WPTSコイルの配置は、様々なパターンを選ぶことができるため設置区域を選択するときの自由度が高いこともわかりました。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、時間や日によって発電量にバラツキがありますが、WPTSと組合せることで、それぞれの地域にふさわしい無駄を省いた電力利用ができると考えられます。この知見によって日本のEV普及率は加速していく可能性があります。


需要の95%をまかなう走行中ワイヤレス給電の最適配置例(バッテリー容量40kWhを想定)
©東京大学生産技術研究所 本間(裕)研究室

 

【参考】

■東京大学プレスリリース

充電の心配なく電気自動車で日本中を旅行できる モビリティ社会像を提示

 

サイエンスライター・白鳥 敬(しらとり けい)
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。