[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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匂いで個人認証 原理の実証に成功

(2022年7月01日)

人工嗅覚センサを介した呼気センシングによる個人認証の概念図。©東京大学

 顔認証や指紋認証など身体の物理的特徴を利用した個人認証技術はすでに実用化されていますが、今回新たに匂いで個人を認証できることが実証されました。

 

 東京大学、名古屋大学、九州大学、及びパナソニックインダストリー株式会社らの研究グループは、人の呼気に含まれている化学物質の情報を読み取ることで個人を識別できることを見出しました。

 これまで皮膚表面から出る希薄な皮膚ガスを利用して個人を識別する研究が続けられていましたが、皮膚ガスに含まれる匂い分子は濃度が低く、センサーで検知するのが難しいレベルでした。そこで、研究グループは呼気に着目しました。

 

 研究グループは、呼気に含まれる化学物質の精密な質量分析を行い、呼気ガスにも皮膚ガスと同じように個人認証に使える化学情報が存在することを突き止めました。AIによって化学物質の種類と量による特徴量を可視化したところ、個人ごとに異なるパターンが存在することがわかったのです。

 さらに16種類の異なる性質を持つ高分子材料と導電性カーボンナノ粒子の混合物から構成された人工嗅覚センサーを開発しました。このセンサーは匂いの分子を吸着すると、高分子材料が膨張し体積が増加することで導電性カーボンナノ粒子間の距離が広がり、電気抵抗が増加します。この電気抵抗の変化から匂い分子の多寡を検知する仕組みです。

 

 実験は年齢・国籍・性別の異なる空腹状態の人の呼気をサンプリングバッグの中に入れ、人工嗅覚センサーで計測しました。得られたセンシングデータをニューラルネットワークで解析したところ、20名の認証を平均97%以上の精度で実現できることが実証されました。

呼気サンプリングバッグ(左)と人工嗅覚センサー(右) ©東京大学
呼気センシングで得られた特徴量マップ(それぞれ右図) ©東京大学

 

 センサー数を増やすことで、識別精度と再現性が上昇することも確認されており、今後はさらに多人数の識別に向けて研究を続けていきたいということです。

 食事による呼気成分の変化など、実用化までにはまだクリアしなければならない課題があるとされますが、匂いは偽造されにくく高いセキュリティを持つため、今回匂い認証の有効性が実証されたことは、より安全な社会を築いていくための大きな成果と言えるでしょう。

 

【参考】

・人工嗅覚センサを介した呼気センシングによる個人認証―化学情報による偽造できない生体認証技術実現へ期待―

サイエンスライター・白鳥 敬
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。