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南極上空の大気の乱れをレーダー観測で解明 気候変動研究に大きな知見

(2020年12月15日)

PANSYレーダー ©国立極地研究所

 国立極地研究所の西村耕司特任准教授を中心としたデータサイエンス共同利用基盤施設、東京大学大学院理学系研究科の佐藤薫教授・高麗正史助教、京都大学による研究グループは、南極昭和基地に設置されている大型大気レーダー(PANSYレーダー)の観測データから、上空の大気乱流の特性を正確に導くための理論式を導出することに成功しました。

 レーダー観測をする場合、乱流の向きが上下左右前後とバラバラなうえに、風速の成分も加わり、反射波から乱流の状態を正確に捉えるのは難しい課題でした。このたび、研究グループは乱流による速度の分散と観測データの間にある関係式を厳密かつシンプルに導き出すことに成功しました。そして、観測データから正確に乱流の速度の分散状態を算出するアルゴリズムを構築し、数値シミュレーションによって推定精度が非常に高いことを示しました。

 PANSYレーダーは、2011年に完成し2015年から本格稼働を始めた「南極昭和基地大型大気観測レーダー(Program of Antarctic Syowa MST/IS Radar)」というドップラーレーダーで、東京ドーム二つ分くらいもある広大な敷地に、高さ約3メートルのアンテナが1045本も並べられています。このアンテナから47MHzの電波を発射、大気の散乱によって返ってくる電波を受信し、上空の気流の速度・風向を観測します。観測範囲は地上付近から500km(熱圏)くらいの高さまでをカバーし、鉛直方向分解能75m、時間分解能約1分で上空の風の乱れを3次元的に捉えることができます。

 また各アンテナから発射する電波の位相をわずかにずらして観測するフェーズドアレイレーダーでもあるため、上空の任意の地点にねらいを定めて観測することができます。

 乱流による速度分散とレーダーの観測値の厳密な関係については、これまで非常に複雑な数式で表されており解析が難しかったのですが、このたび研究グループは、乱流の物理的・統計的特性を考慮することで、極めてシンプルな関係式が得られることを見い出しました。

 成層圏より上の中間圏・熱圏の大気の動きや乱れについてはまだわからないことが多いのですが、今回の成果によって極域における超高層大気の運動の解明が期待され、超高層大気の乱流による熱エネルギーの分散・地球環境における熱エネルギー収支の研究にも貢献すると考えられます。

 また、今回導き出された数式は他の大気観測レーダーにも応用可能であるため、天気予報をさらに精度よくするためにも役立ちます。

大気乱流と観測データの関係 ©国立極地研究所
左:乱流による観測データの模式図。乱流によって速度の観測値がある程度分散するが、そのばらつきが乱流速度の分布を示している。仮に理想的に乱流のみを測定できた場合には、このようなグラフになる。 中~右:実際のレーダーでは電波ビームに幅があるため、風の平均の速度による見かけの分散が発生し、この分散と真の乱流速度分散とが加算された形で観測される。一般に、見かけ上の分散は真の分散に比べて大きい値となり、正確な風速の分散を求めるためには、この見かけの分散を正確に求めることが必要となるが、これまでは不可能であった。

 

【参考】

・大気レーダーの観測データから大気乱流を正確に導出する手法を開発

サイエンスライター・白鳥 敬
1953年生まれ。科学技術分野のライター。月刊「子供の科学」等に毎号執筆。
科学者と文系の普通の人たちをつなぐ仕事をしたいと考えています。