単位 よもやま話(2)
(2019年2月15日)
皆さんが日頃目にする単位には、どのようなものがあるでしょうか。
例えば、右の図は、ある食品に書かれている栄養成分表示の表ですが、kcal,g,mg の3つの単位が書かれています。また、下の表は、あるヘアドライヤーの取扱説明書に出ていた定格・仕様の表ですが、V,Hz,W,m3,min,℃,mg の7つの単位が書かれています。電源の欄にあるACはAlternating Current(交流)の略で、単位ではありません。
このように、少し気をつけていると、私たちの身の回りには単位が書かれているものが多くあります。そして、書かれている単位をよく見てみると、気づくことがいくつかあります。
・文字の数は1~4文字である。
・大文字のもの、小文字のもの、大文字と小文字が混在しているもの、がある。
・多くはアルファベットでできているが、数字や記号を使ったものがある。
これらのことを踏まえて、SI単位(国際単位系の単位)の記号について理解していくことにしましょう。
1.単位記号は、接頭語+SI単位 でできている
接頭語(SI接頭辞とも言います)とは、SI単位の前に付ける1文字の記号で、数値の「0(ゼロ)」を省略して単位の桁を変える事により値を見やすくするためのものです。
例えば、12,000mは、接頭語「k(キロ)」を用いると12kmと表すことができますし、0.035Aは、接頭語「m(ミリ)」を用いると35mAと表すことができます。
接頭語のありがたみのわかりやすい例として、コンピュータの記憶装置の一つであるハードディスク(HDD)の容量について考えてみましょう。HDDの記憶容量の単位であるB(バイト:正確にはByte )はSI単位ではありませんがご容赦ください。最近のHDDでは4TB(テラバイト)の記憶容量の製品が売れ筋のようです。この「4TB」という値のうち「T(テラ)」は1012を意味する接頭語です。「T」を使わずにこの値を表すと、4 000 000 000 000 B となります。この場合では、接頭語「T」を使うことによって、「0(ゼロ)」を12個省略する(桁を変える)ことができたというわけです。確かに分かりやすくなりますね。
【例外】
SI基本単位の一つであるキログラムの単位記号「kg」は、接頭語「k(キロ)」+単位記号「g(グラム)」からできています。元々、質量の単位は「グラム」であり、その定義は1cm3(1cm×1cm×1cm)の水の質量というものでしたが、メートル法に基づき原器が作られたのはキログラム原器だったため、質量の定義は「キログラム原器の質量を1キログラムとする」となり、グラムはその1000分の1 ということになったのだそうです。
さらに、この単位(記号)の成り立ちから、接頭語はキログラムではなくグラムにつけることとなっており、例えばキログラムの10−6倍は、「マイクロキログラム」〔µkg〕ではなく「ミリグラム」〔mg〕となります。
2.SI単位記号はアルファベットで表されるが、大文字で始まるものと小文字で始まるものがある
例えば、7つあるSI基本単位の記号は、m,kg,s,A,K,mol,cd です。これを、大文字から始まる単位記号と小文字から始まる単位記号に分けると、
・大文字から始まるもの:A,K
・小文字から始まるもの:m,g,s,mol,cd
となります。ただし、kgは接頭語を考えずに g で考えます。
さて、この単位記号のグループ分けの根拠は何か、分かりますか?
実は、大文字から始まる単位記号は、人名に由来した単位なのです。
アンペア〔A〕:電流と磁界との関係を示した「アンペールの法則」に名を残すフランスの物理学者、アンドレ=マリ・アンペールにちなんでつけられた https://ja.wikipedia.org/wiki/アンペア
ケルビン〔K〕:イギリスの物理学者で、絶対温度目盛りの必要性を説いたケルビン卿ウィリアム・トムソンにちなんで付けられた https://ja.wikipedia.org/wiki/ケルビン
これに対し、小文字から始まる単位記号は、人名に由来しない単位です。
【例外】
SI基本単位を組み合わせて作ることができる単位であるSI組立単位の単位記号のうち、「オーム」と「セルシウス度」は、例外的な単位記号となっています。
(1) オーム〔Ω〕:電気抵抗の単位で、SI組立単位のひとつである。名称は、電気抵抗に関するオームの法則を発見したドイツの物理学者、ゲオルク・ジーモン・オームにちなむ。記号はギリシャ文字のオメガ(Ω)を用いる。これは、オーム(Ohm)の頭文字であるアルファベットのO(オー)では、数字の0(ゼロ)と混同されやすいからである https://ja.wikipedia.org/wiki/オーム
ということだそうです。たしかに、手書き文字で 10Oと書かれて、これが10オームだと判断するのは、難しいですよね。
(2) セルシウス度〔℃〕:セルシウス度はスウェーデンの天文学者のアンデルス・セルシウスが1742年に考案したものに基づいている。彼は現在のセルシウス温度の目盛付けとは逆の目盛り付けを行った。すなわち、1気圧下における水の凝固点(氷点)を100度とし沸点を0度として、その間を100等分する目盛りを考案した。しかしセルシウスの死後の1744年に、凝固点(氷点)を0度、沸点を100度とする現在の方式に改められた。
セルシウス度は、摂氏度(せっしど)、セ氏度(セしど)と呼ばれることがある。その由来は、セルシウスの中国音訳「摂爾修斯」から「摂」+人名に付ける接尾辞「氏」で、「摂氏」「温度」になった。
ということだそうです。
単位記号 ℃ は、セルシウス度(degree Celsius)のdegree「°」とCelsius「C」を並べて「°C」と2文字で表記するのが正しいはずですが、日本では「℃」という1文字の記号が作られて使われており、あたかもこのような単位文字があるかのようになってしまっています。
ということで、人名由来の単位ではあるのですが、単位記号はアルファベットの大文字Cから始まるのではなく、「°」という記号から始まる単位記号となっています。ちなみに、アルファベットの大文字「C」は電荷の単位クーロンの単位記号で使われています。
【余談】
日々の生活で広くSI単位とともに用いられているため、SIと併用することが認められている非SI単位には、分 (min),時 (h),日 (d, day) などがありますが、他にもリットルがあります。
リットルは人名由来ではないので、単位記号は小文字で表します。慣例的にはL(エル)の小文字の筆記体「ℓ」という記号が用いられてきたのですが、本来単位記号は立体の文字で表記することになっているので、正しくは立体の小文字のエル「l」を使う事になります。
しかし、見ればすぐにわかるように、オームの単位記号のときと同じで、これでは、1l(← この2文字の違いがわかりますか?)と書いて「いちリットル」と読むのは難しいということで、リットルに関しては、人名由来ではないが大文字を用いる表記をしても良いことになっています。
そこで、教科書では混乱を避けるために、リットルの単位記号は大文字「L」を使用しています。(文部科学省の教科書検定の方針だそうです)
3.単位記号の中で使われている記号
例えば、SI組立単位の一つで、力の単位であるニュートン〔N〕は、SI基本単位を用いて〔m·kg·s−2〕と表すこともできます。これは、〔m·kg/s2〕と表すこともできます。
この単位記号のうち、アルファベットでも数字でもない記号「・」「/」は、それぞれ「×」「÷」と同じ意味で使われています。
ところで、単位記号は、その意味が違ってしまわない限り文字の順番は任意で良いことになっています。だとすると、例えばジュール〔J〕をSI単位を用いて表すとき、〔N・m〕と表しても〔m・N〕と表しても良いことになります。また、数学では、積x×yは、x・yと表してもxyと表しても良いことになっています。すると、〔m・N〕は〔mN〕と表しても良いことになります。しかし、〔mN〕は、「メートル・ニュートン」なのでしょうか、それとも「ミリニュートン」なのでしょうか。
この「m(ミリ)」と「m(メートル)」のように、接頭語とSI単位記号におなじ文字が存在しているための混乱を避けるため、記号「・」は意味のある役割をはたします。すなわち、SIでは単位の積を表す場合には「・」を使用することとなっています。
次回(3月15日予定)『単位 よもやま話(3)』では、単位に関するいろいろなお話です。文字どおり、よもやま話となる予定です。
村石 幸正(むらいし ゆきまさ)
教育に関する遺伝と環境からの影響を調べるため、募集枠を設けて双生児を入学させている東京大学教育学部附属中等教育学校で、長年にわたり、理科・物理の教員を務め、放射線教育に関わると共に、双生児研究に携わってきた。
現在、中央大学理工学部に教職課程担当の特任教授として勤務。