単位 よもやま話(1)
(2019年1月15日)
私たちは、ふだん、単位を意識することはあまりありませんが、日常生活の中で一番分かりやすい単位の一つに時間の単位があります。1時間、1日、1月、1年など、日常生活では否が応でも意識せざるを得ないものです。
では、この時間の単位の定義はどのようなものなのでしょうか。
時間の単位の定義は、1日が地球の自転周期、1年が地球の公転周期として定められたものでした。時間は、この2つの異なる定義を用いているため、つじつまを合わせるために、およそ4年に1度、「うるう年」が必要なのです。
しかし、現在では、時間の単位は秒であり、「国際的に定めた単位」として、地球の自転・公転とは全く関係のない定義となっています。(後述)
『単位 よもやま話』は、3回にわたり単位に関する話題を取り上げていきます。まず第1回は、単位の定義のお話です。ちょっと(だいぶ)堅い内容となりますが、頑張って読んでみてください。
さて、2018年11月16日、第26回国際度量衡総会(こくさい どりょうこう そうかい)が開かれ、「国際的に定めた単位」のセットである国際単位系(SI:仏: Système International d’unités、英: International System of Units)に関して非常に重要なことが決まりました。今年(2019年)の5月20日から、新しく決めた単位の定義を使うことになったのです。
(注)度量衡:度は「長さ」、量は「体積」、衡は「質量」を意味している。
https://blog.goo.ne.jp/kute2/e/c3c5cb972c6e7531fac8c4fd6ab45b18
単位の国際的な統一を目的とし、長さの単位にメートル、質量の単位をキログラムを用い、10進法を用いて量を表す方法です。
1795年:地球の赤道と北極点の間の海抜ゼロにおける子午線弧長の1000万分の1の長さ
1799年:最大密度(=液温摂氏4度)における蒸留水1リットルの質量
1879年:最大密度における水1リットルと同じ質量の白金-イリジウム合金製の分銅
(1) ヤード・ポンド法
長さの単位にヤード、質量の単位にポンドを用いて量を表す方法。
1ヤード=0.9144 メートル 1ポンド= 0.453 592 37 キログラム
(2) 尺貫法(しゃっかんほう)
長さの単位に尺(しゃく)、質量の単位に貫(かん)を用いて量を表す方法で、日本独自の
ものであるが、取引や証明に用いることは法律で禁止されている。
1尺 = 10/33 メートル ≒ 0.303 0303 メートル 1貫 = 3.75 キログラム
などがあります。現在、ほとんどの国でメートル法が採用されていますが、メートル法を採用していない国もあります。その代表的な国がアメリカ合衆国です。確かに、アメリカに関するニュースやスポーツに出てくる単位は、ヤード・ポンド・ガロンなどの単位が使われることが多いですね。
また余談ですが、昔読んだ翻訳された小説の中に、「今日は暑い。寒暖計をみたら90度を超えていた」と書かれていたのをみて、びっくりした記憶があります。翻訳した方が、アメリカでは気温の単位に華氏が使われており、華氏90度とは摂氏32度だということを知らなかったのだなと思い、こんな事もあるのかと驚いたものでした。
ちなみに、新しい国際単位系が使われることになる5月20日は、メートル法に関する条約が成立した日です。なるほど! と、うなずいてしまいますね。
2.国際単位系(SI)
1954年の第10回国際度量衡総会で採択された、メートル法の後継として定められた単位系で、7つの基本単位(SI基本単位)と、それらを組み合わせた組立(くみたて)単位が定義されています。
この第10回国際度量衡総会で採択された国際単位系は、現在も使われているもので、 https://ja.wikipedia.org/wiki/SI基本単位に、分かりやすくまとめられていますが、このページのポイントとなる部分を下の表に書いておきます。
量 |
単位 |
定義 |
かつての定義 |
長さ |
メートル |
真空中で1秒の299 792 458分の1の時間に光が進む行程の長さ |
地球のパリを通る北極点から赤道までの長さの1000万分の1 |
質量 |
キログラム |
国際キログラム原器の質量 |
最大密度温度での1 Lの水の質量 |
時間 |
秒 |
セシウム 133 原子が発する電磁波の固有の周期の9 192 631 770 倍の時間 |
平均太陽日の1/86 400 |
電流 |
アンペア |
真空中に 1メートルの間隔で平行に配置された無限に細く無限に長い二本の直線状導体が一定の力を及ぼし合う電流(磁気定数を規定) |
硝酸銀溶液を通過し毎秒0.001 118 00gの銀を析出する不変電流 |
熱力学温度 |
ケルビン |
水の三重点の熱力学温度の273.16分の1 |
水の標準大気圧下での融点と沸点の温度差の100分の1 |
物質量 |
モル |
0.012キログラムの炭素12の中に存在する原子の数と等しい構成要素を含む系の物質量 |
1g/molの原子量または分子量 |
光度 |
カンデラ |
放射強度683分の1ワット毎ステラジアンで540テラヘルツの単色光を放射する光源のその放射の方向における光度 |
燭(ろうそく1本の光度) |
聞き慣れない単位やことばが書かれていると思いますが、あまり気にせずに、分かるところだけ拾い読みしてください。
ここで注目しておいて欲しいことは、
・1メートルの定義:メートル原器による定義ではなく、光の速さが一定である事を利用した
定義となっている
・1キログラムの定義:キログラム原器による定義である
の2つです。
3.新しい国際単位系(SI)(2019年5月20日に施行される)
1960年にメートルの定義が国際メートル原器から特定の光の波長に関連づけられたものに置き換えられて以降、基本単位の中で定義が人工物に由来するものはキログラムのみとなっていました。
そこへ、
・キログラムの定義となっている国際キログラム原器の質量に、1 年で最大 20×10−9 キログラムの変化があることが分かってきた。https://ja.wikipedia.org/wiki/キログラム
・現行の電流の定義では、量子現象に関わるジョセフソン定数 などが最新の値と異なる。
・現行の温度の定義では、 20K 以下と 1300K 以上で十分な計測ができないという報告が
出ている。
など、現行の国際単位系では不都合な点があることが明らかになってきたことを受けて、それらを克服するため、全ての単位を物理定数に基づく定義にすることにしたのです。
すなわち、これまで真の値を求めるために研究(実験)が続けられてきた物理定数のうち、
・プランク定数 h = 6.62607015×10−34 ジュール秒〔J·s〕
・電気素量 e = 1.602176634×10−19 クーロン〔C〕
・ボルツマン定数 k = 1.380649×10−23 ジュール毎ケルビン〔J·K−1〕
・アボガドロ定数 NA = 6.02214076×1023 毎モル〔mol−1〕
の4つを、定義値(つまり「この値である」と約束してしまうということ。従って、真の値を求めて研究(実験)する必要はなくなる。)とすることとし、その上で、7つの基本単位(SI基本単位)を定義し直しました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/新しいSIの定義 に出ている定義はわかりずらいので、
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/pdf/90547.pdf に出ている定義を次に書きます。ただし、新しい単位の定義の依存関係に基づき、前出の単位の定義の表とは順番が異なります。
量 |
定義 |
時間 |
セシウム 133 原子の基底状態の 2つの超微細構造準位の間の遷移に対応する放射の周期の 91億9263万1770倍の継続時間 |
長さ |
1/2億9972万2458秒間に光が真空中を進む長さ |
質量 |
周波数がc2 /(6.62607015×10‒34)ヘルツの光子のエネルギーと等価な質量 |
電流 |
1秒間に電気素量の1/(1.602176634×10‒19)倍の電荷が流れることに相当する電流 |
熱力学温度 |
1.380649 × 10‒23ジュールの熱エネルギーの変化に等しい |
物質量 |
6.02214076×1023個の要素粒子を含む系の物質量 |
光度 |
周波数 540 × 1012ヘルツで放射強度が 1/683 ワット毎ステラジアンである光源の、その方向における光度 |
それでもまだわかりにくい表現ですが、質量、電流、熱力学温度、物質量の定義が変わり、
・質量:1キログラムは、c2/h 〔Hz〕の光子のエネルギーと等価な質量(cは光速、hはプラン
ク定数)
・電流:1アンペアは、1秒間に電気素量eの1/e 倍の電荷が流れることに相当する電流
・熱力学温度:1ケルビンは、kB〔J〕の熱エネルギーの変化(kBはボルツマン定数)
・物質量:1モルは、アボガドロ定数個の原子・分子の数
になります。
次回(2月15日予定)『単位 よもやま話(2)』は、単位を表す文字についてのお話です。
村石 幸正(むらいし ゆきまさ)
教育に関する遺伝と環境からの影響を調べるため、募集枠を設けて双生児を入学させている東京大学教育学部附属中等教育学校で、長年にわたり、理科・物理の教員を務め、放射線教育に関わると共に、双生児研究に携わってきた。
現在、中央大学理工学部に教職課程担当の特任教授として勤務。