単位 よもやま話(3)
(2019年3月15日)
百つながりのよもやま話
今回の最初の話題は、SIから離れます。
さて、単位ではないのにあたかも単位記号のような扱いとなっているものに、「ppm」(parts per million:パーツ パー ミリオン)や「%」(percent:パーセント)があります。
例えば、
というように使われ、特に「%」は日常生活の様々な場面で使われています。 ですがいくら単位記号のような使われ方をしていても、「ppm」も「%」も単位記号ではありません。これらは割合(あるいは、比率)を表していることを示す記号であり、10ppmとは10 / 1000000、8%とは8 / 100という割合を示しているのです。ですから、この割合のもとの量が「長さ」でも「質量」でも「個数」でも何でもかまわないのです。例えていうと、「2割引の安売り」という場合の文字「割」に相当する記号です。もちろん、2割とは2 / 10 のことですよね。
ところでこの「ppm」と「%」、見た目は全く違いますが意味はとてもよく似ているのです。日本語では「ppm」は百万分率、「%」は百分率といいます。ppmとは parts per million の各単語の頭文字を取った略号であり、
Parts-per表記
https://ja.wikipedia.org/wiki/Parts-per表記
にあるように、「□□ parts per △△」で「△△ 分の□□」ということを意味します。そして、million(ミリオン)とは百万を意味しています。また、%(パーセント)とは、
パーセント
https://ja.wikipedia.org/wiki/パーセント
によれば、
”ラテン語: per centum”が語源であり、perは「毎に」、centumは「百」を意味する
ということであり、どちらも「△△ パー □□」という表記を用いて、
△△
□□
という分数を表しているということなのです。だとすると、「パー」という表記は分数の横棒を表していることになり、「セント」とは100を意味しているので、20パーセント とは、
20 パー セント
20 / 100
となり、意味は、100分の20 ということになるわけです。
「%」が単位ではない、という意味がわかったでしょうか。
ところで、%という記号の由来については諸説あるようで、
パーセント記号
https://ja.wikipedia.org/wiki/パーセント記号
には、
「/100」を変形させ、「/1」を1本の線に略して位置をずらし「%」とした、
という記述があります。鉄道の線路の勾配を表す際に使われる割合に
パーミル(千分率,記号:‰ )
https://ja.wikipedia.org/wiki/パーミル
http://asuzuki.la.coocan.jp/train/nagaden/permil.htm
というものがある事から、結構この説の信憑性も高いのかもしれません。
話は変わって、「centumは百を意味する」ということから連想すると
・セント(cent)という通貨単位は、基本通貨の 1/100 である(例:$1 = 100 ¢ )
https://ja.wikipedia.org/wiki/セント_(通貨)
・1世紀(100年)は、英語で Century である
・ローマ数字で100は、C である(語源はラテン語で「百」を意味するcentum)
https://ja.wikipedia.org/wiki/C
・センチ(centi, 記号: c)は基礎となる単位の 1/100 の量であることを示す接頭語であり、
ラテン語で「百」を意味する centum に由来する
https://ja.wikipedia.org/wiki/センチ
・centigradeとは、「百度目盛りに分けた」という意味で、a centigrade thermometer とは
直訳すると「百度目盛りに分けた温度計」となります。基準温度の間を100等分した温度目盛り
はセルシウス温度目盛りのことなので、摂氏温度計という意味になります。
https://dictionary.goo.ne.jp/word/en/centigrade/
・centenaryとは、100周年 という意味である
というように、同じ語源から様々な表現が生まれていることがわかります。さらに、なんと
・百足(ムカデ)の英名のCentipedeはラテン語の百(centi)脚(pede)に由来する
https://ja.wikipedia.org/wiki/ムカデ
のだそうです。これには驚いてしまいました。洋の東西を問わず、同じ感性なのでしょうか。
「百」つながりの勢いで書いてしまうと、ヘクタール(hectare:ha)という単位は 接頭語hと面積の単位アール(are, 記号a)からできており、接頭語hはギリシャ語のhect(100の)、面積の単位アールは10 m×10 m(=100 m2)の面積のことですので、結局、1 ha = 100×100 m2 = 10000 m2となります。
値を表記するときの単位記号の扱いについて
分かりやすいのは長さの単位についてだと思いますので、長さの値を表記する場合を例にして考えていきましょう。
新しいSIの長さの定義は、次のようになっています。
メートル (m) は長さの単位である。その大きさは、単位 m·s−1 による表現で、真空中の光速度 c の数値を 299792458 と定めることによって設定される。
https://ja.wikipedia.org/wiki/新しいSIの定義
この文章には、長さの「単位の名称・記号」と「その大きさ」が書かれています。
つまり、SIでは、
長さの単位の名称:メートル
長さの単位記号:m
と定められています。(2019年5月20日 からですが・・・)
ここでは、この定義された「長さの単位」を便宜的に「単位長さ」と呼ぶことにします。そして、この「長さの単位」を記号で表すと m と表記されるということです。そのことを踏まえて、具体的な長さの表記について考えてみます。
例えば、3 mとは、「単位長さ」の3倍の長さという意味です。
つまり、
3 m = 3 × 「単位長さ」
= 3 × m
ということです。でも、私たちは普通3 m(「単位長さ」の3倍の長さ)のことを「3 × m」とは表記せず「3 m」と表記しています。これは、数学でa×bをabと表記するのと同様に、かけ算の記号「×」を省略して、「3 × m」を3 mと表記しているのです。ですから、1 mとはもちろん、1 × m (「単位長さ」の1倍の長さ)のことです。
では、5 cmとはどのような長さでしょうか。もうわかっている人もいるかと思いますが、5 cm とは、1 cm の5倍の長さということではありません。
5 cm = 5 × cm ( 接頭語「c」は、10-2 なので)
= 5 × 10-2 × m
= 0.05 × m
= 0.05 m
と表されます。つまり、5 cm とは、「単位長さ」の0.05倍の長さのことです。
量を表す文字に続けて単位の記号を表記する場合について
ある量を(一般化、あるいは抽象化して)、文字で表すことがよくあります。例えば、「この物体の質量はMである」などという場合です。
このような場合、この質量の表し方に2通りあるようです。
1.文字が数値と単位を表している場合(文字が、質量を表している場合)
この場合、Mは数値と単位を表しているので、「質量はMである」という表記となります。
2.文字が数値を表している場合
この場合、Mは数値だけを表しているので、「質量はM kgである」という表記となります。
つまり、数値を表している文字Mに単位記号kgを付けています。(でないと、質量の単位が
分からないので)
このとき、2 の「文字が数値を表している」場合、問題が起きることがあります。例えば、ゴマ1粒の質量を考えてみましょう。
ゴマ1粒の質量は、およそ0.003 g程度のようです。
http://kingoma.co.jp/mt3/archives/8114
ゴマは植物の種ですから、1粒1粒の質量は同じではないと考えられますので、一般化して、ゴマ1粒の質量をm gとします。(上の例でいうと、 m = 0.003 ということです)
では、ゴマ10粒の質量はどう表せるでしょうか。もちろん
m g × 10 = 10m g
となります。
では、このことを文章で表してみましょう。
ゴマの質量は 10m g です。
どうでしょうか。気づかれましたか? ここで表記した「10mg」とは、「10m × g(10エム グラム)」なのか、「10 × mg(10ミリグラム)」なのか分からなくなってしまっています。もちろん、それまでの議論を踏まえていれば迷わないのですが・・・。
このような場合、慣れている人ならば、あれッ? と思ったら前の部分を読み返して確認すればそれで済むのですが、不慣れな人は混乱してしまう(あるいは間違えてしまう)場合が出てきてしまいそうです。
そこで、不慣れな人の代表格である中学生・高校生向けに作られている教科書では、数値を表す文字に続けて単位を表記する場合は、単位を〔 〕で囲んで表記しています。(続けて書くと〔〕となって、まるで亀の甲羅のように見えるので亀甲括弧(きっこうかっこ)と呼ばれています。)
なぜ亀甲括弧〔 〕を使うかというと、小括弧( )、中括弧{ }、大括弧[ ]は [g+{(a-c)b-d}(e/f)]×(a+b) などのように計算式の中で使うので、他のものを使うようにしたということのようです。
もちろん、これは中学校・高等学校向けの教科書での記述に際して便宜的な措置として文部科学省の教科書検定で認められているということで、正式な表記ではありません。正式には、「単位を括弧で囲むことはしない」です。ですが、先生方の中にはご自分が生徒・学生だったときに教えられたやり方をそのまま自分の生徒・学生に教えてしまう方がおられ、中には「3 m」を「3〔m〕」と表記してしまう方もおられるようです。また、〔 〕が全角文字(2 byte文字)なので避け、単位を囲む括弧に(計算式の中で使う可能性が最も低い)大括弧 [ ] を使う方もおられるようです。
確認すると、
ということです。本当はかけ算記号「×」があるのですから、数字に続く単位記号は括弧で囲まないようにしましょう。
もう一つ、気づいた点がある方もおられるのではないでしょうか。
数値を表す文字mは斜体で、接頭語や単位記号のmは立体で表されているのです。このページのように、フォント(あるいは印刷された文字)で表されている場合には比較的簡単に気づきますが、手書き文字の場合は判別はできないですよね。ですから、上記のような便宜的な措置がとられるようになっているのです。
村石 幸正(むらいし ゆきまさ)
教育に関する遺伝と環境からの影響を調べるため、募集枠を設けて双生児を入学させている東京大学教育学部附属中等教育学校で、長年にわたり、理科・物理の教員を務め、放射線教育に関わると共に、双生児研究に携わってきた。
現在、中央大学理工学部に教職課程担当の特任教授として勤務。