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厄介者の外来種が絶滅種復活の救世主になるかもしれない?!

(2024年3月15日)

 自然に分布していない野生生物が、他の地域から持ち込まれると、”外来種(がいらいしゅ)”として厄介者扱いされます。在来(ざいらい)の生息地を奪う(うばう)だけでなく、捕食(ほしょく)によって在来種を減らし、近縁だと交雑(こうざつ)が起こることもあります。一度、交雑が起こると在来種との判別は難しくなり、外来種だけを選んで駆除(くじょ)することはなかなかできるものではありません。生態系を攪乱(かくらん)する元凶(げんきょう)と言える存在ですが、中国から持ち込まれたオオサンショウウオは種の保全に役立てられる可能性があることが明らかになりました。

 元々日本にはオオサンショウウオが生息しているにもかかわらず、1960年代以降、中国に分布する近縁のチュウゴクオオサンショウウオが持ち込まれました。飼育施設から逃げ出すなどして日本の河川に定着し、在来種との交雑も確認されており、こうした事実だけを見るとチュウゴクオオサンショウウオも厄介な外来種であることは間違いありせん。

 そこで交雑個体の判別を目的に、京都大学、国立科学博物館、琉球大学、北九州市立いのちのたび博物館などの研究グループは、京都市を流れる鴨川をはじめ、各地に生息するオオサンショウウオ、水族館や個人宅などで飼育されていたチュウゴクオオサンショウウオの遺伝子を調べました。種の判別にも用いられる核DNA、ミトコンドリアDNAのマイクロサテライトと呼ばれる領域を解析した結果、45個体の交雑個体と、28個体の”中国のオオサンショウウオ”が見つかりました。

 ここでいう“中国のオオサンショウウオ”は厳密には1種類ではなく、スライゴオオサンショウウオ4個体が含まれていました。このスライゴオオサンショウウオは、一時期、チュウゴクオオサンショウウオと同種だとされるも、現在では独立した種類だと判断されています。ただし、最初に報告された時に捕獲(ほかく)された標本が残るのみで、スライゴオオサンショウウオは中国ではすでに絶滅(ぜつめつ)しているのです。

 今回の研究で見つかったスライゴオオサンショウウオ4個体のうち、生存している2個体(写真1、2)はいずれもオスのため、この2個体で繁殖を行うことはできません。しかし、死んだメスの細胞が冷凍保存されていることから、今後、クローン個体での復活が目指されており、その個体を用いた人工繁殖(じんこうはんしょく)も検討されています。近い将来、日本では外来種のスライゴオオサンショウウオが絶滅種を復活させる救世主になるかもしれません。

 

写真1 スライゴオオサンショウウオ (サンシャイン水族館 提供)
写真2 スライゴオオサンショウウオ (広島市安佐動物公園 提供)

日本で発見されたスライゴオオサンショウウオ。
日本在来のオオサンショウウオが体長60~70㎝であるのに対して、スライゴ
オオサンショウウオは1mを超える個体もいて、世界最大の両生類と言われている。

 

 

【参考】

■京都大学のプレスリリース

絶滅したオオサンショウウオが生きていた!―外来種が救う種の絶滅?―

■Scientific Reportsの論文
「Discovery of ex situ individuals of Andrias sligoi, an extremely endangered species and one of the largest amphibians worldwide」

 

斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。