地中に捕虫器官!! ボルネオ島で新種のウツボカズラ発見
(2022年7月15日)
植物園や園芸店、ホームセンターなどでは、ハエトリソウやモウセンゴケ、ウツボカズラなどのさまざまな食虫植物を見ることができます。食虫植物は、葉が特殊化してできた捕虫器官を用いて、昆虫をはじめとした小動物を捕らえ、消化、吸収して、栄養源として利用するため、栄養の乏しい土壌でも生育することができます。
ウツボカズラでは,葉の先端に壺状の捕虫器官が形成されます。この捕虫器官は落とし穴式の罠です。中には分泌液がたまっていて、そこに落ちた獲物は消化されてウツボカズラの栄養源となります。
ウツボカズラは、ウツボカズラ科ウツボカズラ属の総称で、世界に160種以上が報告されています。ウツボカズラ属植物は、おもに東南アジアの熱帯・亜熱帯の地域に分布し、ボルネオ島、スマトラ島、フィリピンなどに多様な種が自生しています。
このほど、パラツキー大学オロモウツ(チェコ)などの研究グループは、ボルネオ島のインドネシア・北カリマンタン州で、地中に捕虫器官をもつ新種のウツボカズラを発見しました。学名はネペンテス・プディカ(Nepenthes pudica)。地中に壺状の補虫器官を形成するウツボカズラは、世界で初めての発見です。
捕虫器官は長さ7~11cm、幅3~5.5cmで、地中の根のすき間などにできた空洞や土の中に形成されていました。捕虫器官は地上にもわずかにありますが、大部分は地中にありました。
地中の捕虫器官5つと地上の捕虫器官1つについて、捕獲された生物を調べてみると、40種1785個体の無脊椎動物が見つかりました。新種ウツボカズラのエサとなっていたのは、主に地中に生息するダニや甲虫、そしてアリなどでした。なお、見つかるアリの種類は、地上と地中の捕虫器官では異なっていました。さらに、蚊の幼虫、線虫、環形動物なども見つかりました。これらの結果は、地中に形成された落とし穴式の捕虫器官には、エサを捕る働きがあることを示しています。
新種のウツボカズラは標高1100~1300mの比較的乾燥した尾根沿いに生育しています。地中に捕虫器官をつける利点として、地中は湿度などの環境条件が地上よりも安定しているため、とくに大気が乾燥している時には、地中のほうが多くのエサを得られる可能性が挙げられます。その一方で、地中の補虫器官は、より丈夫なつくりとなっているので、その分は地上の捕虫器官よりもコストがかかる、つまり余分にエネルギーが必要になると予想されます。
新種ウツボカズラは、地中に特化した落とし穴式の捕虫器官が確認された初めての食虫植物です。この種はほとんど地中にしか捕虫器官を作りません。今回の発見は、ボルネオ島が自然豊かであり、おそらく未発見の種がまだ多いのだろうということを改めて考えるきっかけにもなります。その一方で、ボルネオ島の広大な原生林の面積はここ数十年で急速に減少していて、希少な生物を含めて多くの種が失われる危険性が高まっています。実際に、今回の新種は、すでに絶滅が心配される状況だと研究グループは報告しています。
【参考】
・Dančák M. et al. (2022) First record of functional underground traps in a pitcher plant: Nepenthes pudica (Nepenthaceae), a new species from North Kalimantan, Borneo. PhytoKeys 201: 77-97
doi: 10.3897/phytokeys.201.82872
保谷彰彦
文筆家。植物学者。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門は植物の進化や生態。主な著書に新刊『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。
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