地球温暖化で秋の紅葉が早まる!? 大規模データで解析
(2021年1月01日)
地球温暖化が進むと、秋の落葉は遅れるのではなく、早まるかもしれません。チューリッヒ工科大学(スイス)を中心とする研究チームは、この意外とも思える予測を学術誌『サイエンス』に発表しました。
温帯の落葉樹は、秋になると葉が赤色や黄色に色づきます。いわゆる紅葉(こうよう)や黄葉(こうよう)と呼ばれる現象で、冬の寒さが訪れる前に、樹木は成長をいったん止めて、葉から栄養分を取りだし、葉は老化していきます。
地球温暖化の影響は、樹木の季節変化にも影響を及ぼすことが予想されます。実際に、暖冬が原因で、温帯の樹種では春に葉の広がる時期が早くなっているという報告もあります。
一方で、葉の老化や落葉の時期はどうでしょうか? これまで、秋の気温と日長が葉の老化のタイミングを決定する主な要因だと広く考えられてきました。そのため、温暖化が進めば、将来的には、春の葉の展開が早くなり、秋の落葉は遅くなるという推測につながっていました。この推測によれば、葉が光合成する期間が長くなり、大気中のCO2がより多く樹木に吸収されることになるので、結果として温暖化の影響は樹木によって緩和されるかもしれません。
ところが、葉の老化のメカニズムには不明な点も多く残されており、近い将来に温暖化の影響で、落葉の時期が遅くなるのか、あるいは早くなるのか、正確に予測することが困難でした。研究チームは、春や夏に光合成が活性化して、より多くのCO2が吸収されれば、葉の老化が早まるという仮説をたてました。なぜなら、土壌から得られるチッ素などの栄養分の量が限られていれば、落葉樹が一年間に光合成をして吸収できるCO2の量は制限されると考えられるからです。
そこで、研究チームは、1948年から2015年までに、中央ヨーロッパの3,800か所で行われた合計43万4,000件の樹木の季節的な変化を記録したPan European Phenology Projectのデータを利用することにしました。対象としたのは、ヨーロッパの代表的な6つの樹種で、ヨーロッパのトチノキ、シラカンバ、ブナ、カラマツ、ナラ、ナナカマドの仲間です。それぞれ、葉の展開する時期、季節的な光合成の活性、CO2濃度、気温、降水量などの様々な要因について、葉の老化に及ぼす影響を調べたのです。さらに、人工気象室と屋外で苗木を用いた一連の実験も行いました。
その結果、葉の老化の主な要因は、光合成の活性、秋の気温、日長でした。春と夏に光合成の活性が高まった年には、葉の老化が早く始まり、光合成活性が10%増加するごとに、葉の老化が8日早まることが分かったのです。
今回開発されたモデルでの予測では、温帯の落葉樹の光合成活性が高くなると、今世紀末までに、葉の老化は現在よりも3日から6日早くなることがわかりました。温暖化が進んでも、樹木がより多くのCO2を吸収してくれるという考えは、どうやら楽観的すぎだったのかもしれません。
【参考】
Deborah Zani et al. (2020). Increased growing-season productivity drives earlier autumn leaf senescence in temperate trees. Science 370, 1066-1071.
保谷 彰彦(ほや あきひこ)
文筆家、サイエンスライター。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門はタンポポの進化や生態。著書に『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。2021年度から中学校「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」が掲載予定。